第67話 闇の帝国 |
「 ふわあ……。あれ?」 深い眠りから覚めて隣のベッドを見ると、そこに既に如月の姿はなかった。 「 あいつ、また勝手にどっかへ行って…!」 龍麻は慌ててベッドから飛びおり、急いで着替えを済ませると部屋の外へ出た。 結局、ベッドが1つしかない部屋で2人休むのは無理だと、龍麻たちは「急遽空いた」という2人部屋へ移動させてもらっていた。昨晩龍麻がコスモの連中だけでなくその場にいた村人たちと歓談した事が効いたのかもしれない。宿屋の主も随分と態度を軟化させていた。 だからと言っていなくなっている如月が宿の酒場で主人らと飲んでいるとは思えない。 龍麻は階下へ向かうとそのまま宿の外へ出た。 「 うわ、もう夕方かあ…」 真っ赤に染まっている夕焼け雲を見上げながら龍麻は思わず声を上げた。 朝方ベッドに入ったから当然といえば当然だが、こんなに休んでしまって良かったのだろうか。コスモたちや彼らに護衛を頼んだ薬屋の老人、その孫娘は「自分たちはそれほど急いでいないから」と、快く延泊を受け入れてくれたが、それでも龍麻は自分自身の問題として《名もない村》に仲間のアランたちを置いてきてしまっている。皆今頃心配しているに違いない。徳川へ行ったらとりあえず彼らに連絡だけは入れようと龍麻は思った。 「 そうだ…。あと、万全の体勢にしておく為にも、とりあえずこの村で何か調達しておこうかな。武器とか」 如月を探しながらこの村の探索をしよう。よくよく考えればこの村の事を何も知らないなと龍麻は思った。 夕刻とはいえ、まだ外には大勢の人々が村の往来を歩いている。龍麻はその様子を眺めながらゆっくりとそれほど広くもない村の周辺を巡り始めた。 龍麻は村人から情報収集を兼ねた探索を開始した!! 龍麻「こんにちは」 村娘A「ようこそターフ村へ」 龍麻「最近何か変わった事があるみたいですけど」 村娘A「ようこそターフ村へ」 龍麻「………」 この村人はその台詞しか言わない!!龍麻は次の村人に話しかけた!! 龍麻「こんにちは」 村人B「ここから西へ向かえば徳川国があるぞ」 龍麻「あの、ここの村の人ってどうして徳川の人を嫌ってるんですか」 村人B「ここから西へ向かえば徳川国があるぞ」 龍麻「………」 この村人も同じ台詞しか言わない!! 龍麻は何となくストレスを感じた!! 「 ふう〜情報収集も結構疲れるなあ…」 しかし龍麻はあちこち歩いてほぼ全員の村人と話し、幾つかの情報を得た。 ここ数日で何人かの村人たちが行方不明になっているということ。 この村とほぼ隣接している徳川大国の現在の王は最近変わったばかりだが、その王は我がままで自己顕示欲が強く、国民に過剰な税負担を課して圧制を強いているということ。 夜出歩くとモンスターに出くわす、しかもその後はいつも大量の水がその出没地帯に滴っているということ。 ここ最近の地殻変動は何か悪い事の影響、黒竜が暴れているせいではないかということ。 それから。 「 徳川と並ぶほどの大国・秋月では剣や魔法に自信のある優れた勇者を募集しているそうだ。その勇者さまが今のこの混沌の世を鎮めて下さるってもっぱらの噂だよ」 殆ど暗い世間話しかしない村の人間が、最後にようやく聞かせてくれた明るい話題がそれだった。 「 そんな過大な期待をもたれてもなあ…」 こっちが暗くなるよと思いながら龍麻は最後に村の一番奥、昨晩二手に分かれて迷った分かれ道にたどり着いた。 「 あ…またここか。何だこの村、武器屋ないじゃん…」 ここに来るまで、店らしい店と言えば龍麻たちが泊まっている宿屋と小さな道具屋のみ。武器は今度だなと思いながら龍麻は昨晩のことをふと思い返していた。 「 そういえば…水岐さん、一体何だったんだろう…」 あのノリで行くとあの人はたぶん悪者だ。いや、ノリも何も自分をあんな魚人が蠢くボロ小屋に閉じ込めて行ってしまったのだ、敵には違いないだろう。 「 でも…あの人、何だか悲しそうだったんだよな。……はーあ、何だか俺の周りって悲しい人ばっかりだ…」 自分が今まで呑気過ぎたのか。きっとそうなのだろう。 「 ……はあ」 龍麻はもう一度ため息をついた後、今度は一昨日出て来た地下通路のある方向へ目をやった。 「 あ…」 するとそこから如月が誰かと連れ立って戻って来た。如月の背後についているとはいえ、背はその人物の方が高い。 目を凝らし、段々と近づいてきたその人物をはっきりと認めて龍麻は声を上げた。 「 あ〜!!」 「 よう、先生。勝手に1人で迷子になってちゃ困るぜ」 村雨祇孔が現れた!! 「 龍麻様、ご無事で!!」 「 芙蓉も!?」 すると何処から現れたのか、ふっと村雨が息を吹いたのと同時、何かの魔法のように式神・芙蓉も現れた!! 「 ど、どうしたの、一体…!?」 「 どうしたもこうしたもねーぜ。秋月じゃ大騒ぎだ。先生が消えたってな」 「 ご、ごめん…! 俺も気になってはいたんだけど…」 「 龍麻様に何事もなく、この芙蓉、心より安心致しました…」 「 ご、ごめんね、心配かけて…」 それにしてもどうして2人と如月が一緒なのだろう? 龍麻が問うように如月を見ると、察しの良い如月は軽く肩を竦め、面白くもなさそうに言った。 「 村雨たちとは古い仲だ。君の仲間になっているのも知っていたので連絡したまでさ。まさかこんなに素早く迎えに来るとは思わなかったが」 「 先生をさっさと取り戻して来いっつったのは、御門だぜ。あいつ、ちゃんとしてるようでいてどっか抜けてるからな。先生の動向を追っていたつもりがいつの間にか見失ったってんでそりゃもう慌てふためきやがってよ」 「 村雨、晴明様に対する暴言は許さんぞ…!」 「 はいはい」 芙蓉の牽制を軽く流しながら、村雨はいつもの余裕の笑みを向けると龍麻を見やった。 「 それにしてもこっちこそ驚いたぜ。まさかこうも早くに如月の奴を仲間にしてたとはな。さすがは先生と言ったところか」 「 あの、でも…」 まだ完全な仲間じゃないと言おうとする龍麻に、村雨は「よせよせ」と軽く手を振って笑い飛ばした。 「 こいつを見てれば分かるってもんさ。先生、あんたは…また頼もしい仲間を1人手に入れたんだぜ?」 「 村雨…」 しかし龍麻がそう言った村雨に何か言葉を継ごうとした時だった。 「 1人じゃないぜッ!」 「 俺っちも!」 「 私もいるわよっ!!」 「 ん……」 すると通りの向こうからだっとの勢いでコスモの3人が叫びながら駆け寄ってきた。どうやら突然宿屋からいなくなった龍麻に気づいて慌てて後を追ってきたらしい。 「 ひどいぜ龍麻、俺たちを置いて行こうとしてたのか!?」 「 あ、いやそんな…」 「 そうでなくとも、1人で出歩くなって! 昨日の今日で危ねーじゃねーか!!」 「 そうよそうよ! 龍麻君はもうちょっと自分の可愛さを認識した方がいいわよッ! また誰かに誘拐されたらどうするの!?」 「 え? えーと…」 「 先生、何だいこの度派手な面子は?」 「 むっ、お前こそ何だ何だ!?」 「 そうだぜ、龍麻に何の用だ!?」 「 でも何と訊かれたからには答えないわけにはいかないわねっ」 「 おっ、そうだな。じゃあいくぞ! この世に悪がある限り…!」 「 正義の祈りが我を呼ぶ…!」 「 そうそう、ところで先生」 自己紹介をしている最中のコスモを完全に無視して、村雨は改めて龍麻に向き直った。 「 アンタがいない間にちっと面倒な事になってるぜ。あん時のパーティ覚えてるか?」 「 え、勿論。アランと醍醐とマリィだけど…」 そしてここにいる如月が加われば世界の秩序を護るとされる4神の血を引く者全てが揃う事になる。またその4神の鍵全ては既に龍麻の手の中だ。これらが揃って何が起きるのかは知らないが、徳川へ向かった後いずれはあの東の洞窟へ向かおうと思っていた龍麻である。 しかし村雨が言った。 「 その仲間の1人、アランの姿が見えねえんだ」 「 えっ!?」 「 先生が消えた夜から行方が分からない。心当たりは?」 「 アランは…」 アランを最後に見たのはあの名もない村での夜の晩。突然現れた怪しい影を追い、アランは1人パーティから離れた。 龍麻はさっと青褪めた。 「 お、俺のせいだ…」 「 今皆で探しちゃいるが…。しかし、こりゃどう考えても…」 村雨は暫し言い淀んだようになってちらと如月を見やった。 「 ……?」 龍麻が不思議そうに如月に視線をやると、すぐにその答えは返ってきた。 「 彼の居場所なら想像がつく」 「 ほ、本当、翡翠!?」 「 しかしそこへ行く為にはやはり一度徳川へ戻る必要があるだろう」 「 え、どうして!? 場所が分かっているならすぐに助けに行かなくちゃ!!」 「 ………」 「 翡翠?」 「 ……面倒なんだよ、行くのが」 黙りこむ如月に村雨が代わりに答えた。そして「特にコイツはな」と何やら皮肉交じりに付け足す。 「 村雨」 如月が不快な顔をして先を止めたが、龍麻はじりじりとした気持ちになって思わず声を荒げた。 「 と、とにかく場所が分かっているなら教えてよ! アランは一体何処へ…!?」 「 彼はあの村で見た影を追って行ったんだろう?」 「 う、うん」 「 ならば魚人の巣窟へ迷いこんだと思うのが自然だ…」 「 魚人の巣窟!?」 「 或いは…」 それきり黙りこむ如月に、今度は村雨が先を続けた。 「 先生ももう耳にはしてるだろう。名もない村とここターフ村での魚人騒動。そして、度重なる村人の失踪事件」 「 あ、うん…。でも、それが…?」 「 この下だ」 村雨はふうとため息をついた後地面をどんと蹴って言った。 「 ここに、恐ろしい闇の帝国を作ろうとしている奴がいるって事だ。これはその始まりに過ぎない」 《現在の龍麻…Lv15/HP85/MP70/GOLD7510》 |
【つづく。】 |
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