第70話 恋した少年 |
「 そうなんですか。お父君の言いつけで旅を」 「 随分とスパルタなお父様なんですね」 「 う、うん、そうなんだ。ホントむちゃくちゃな奴なんだよ、あのヒゲオヤジは…」 龍麻は霧島王子、さやか姫に自分は外れ村出身の人間で、ある日突然父親から「武者修行に出ろ」と言われて旅を始めた事だけをさらりと述べた。「勇者」というところを「武者修行」に変えただけで大分印象が変わる。自分自身「勇者」という呼び名に抵抗のあった龍麻は、最初からこういう風に自己紹介すれば良かったと今さらながらに思った。 「 それで世界でも名だたる名君と噂の徳川王の謁見を望まれたのですね。分かります、折角旅に出たんですもの、王にお会いできないままには次の国へは行けませんものね」 「 う、うん。それにしても徳川王ってそんなに素晴らしい人なの?」 龍麻は首をかしげながら不思議そうな顔で問うた。 さやか姫はこの周辺の村人たちとまるきり正反対のイメージで徳川王の事を話すから。 「 勿論です! そもそも今の世がこうしてあるのは、古の動乱の折、徳川の若き王が勇者たちを引き連れて恐ろしき暗黒竜を闇へ封じ込めたからなんですよ!」 「 へ、へえ〜」 天童はそれをただの法螺だと言っていたが。一体どちらが真実なのだろうと龍麻は思う。 そんな相手の疑問には気づかずさやか姫は尚も熱っぽく語った。 「 それに今だって、この街の繁栄ぶりを見れば分かります。毎年行われるマガミカップにもいつも優勝されてますし。徳川国はさやかの憧れなんです」 「 さやかちゃんの夢は徳川で大コンサートをする事なんだよね」 「 がっぽり大もうけ!」 「 は?」 ガッツポーズをしてにこにこするさやか姫に龍麻はあんぐりと口を開けた。 霧島王子が淡々と答える。 「 先ほども申し上げた通り、僕たちの国は詩と音楽を愛する国。ですが正直なところ、芸術に秀でている反面、僕たちの町では商いの上手い者がまた異様に少ないのです。芸術家って勝手な人が多いですからね、商売には向かないんですよ」 「 だからさやかが徳川王と親しくなっておけば色々とお得でしょ!」 「 ……さやかちゃんはこう言うんですけどね」 横に座ってウキウキとしている姫君ををちらと見つめながら、霧島王子はハーとため息をついた。どうやらかなりの苦労人らしい。 「 そ、それで…。まあお互いに自己紹介したところで、どうやってお城の中に入ろうか?」 「 私が歌って衛兵さんを惹き付けている間に2人が小舟を奪うっていうのはどう?」 「 駄目だよ! さやかちゃんに危険な真似はさせられない!」 「 それじゃ霧島君が囮になる?」 「 ……そもそも夜中に侵入なんかする人間に王がお会いしてくれるかどうか」 「 もう、またその話!? 仕方ないでしょう、どうせ昼間だってお会いできないんだから!」 「 さやか姫たちは王族なんだから会ってくれても良さそうなものなのにね」 龍麻の至極もっともな疑問に霧島王子は首を左右に振った。 「 駄目なんです。それは最初の時に言ったのですが、信じてもらえなかった上に王族を騙る不審者呼ばわりで逆に追われてしまったくらいで」 「 そもそもお母様に内緒で来たものですから、事前に使者を立てるという事もできなかったですし…仕方ないですね」 「 それじゃやっぱり小舟を奪うしかないね。でも一体どこに…」 龍麻が考えこむように顎に手をやると、さやか姫は焦れたようになってすっくと立ち上がった。 「 だからあそこにいる衛兵さんたちを何とか分散させなくちゃ、それを調べる事もできないわ! 2人共、いい加減に腹を決めてちょうだい!」 「 は、はい…」 「 しょうがない、行きますか」 萎縮しながら頷く龍麻、すっかり諦めたように立ち上がる霧島王子にさやか姫はフンと鼻を鳴らして両手を腰に当てた。 龍麻はさやか姫、霧島王子とパーティを組んだ!! ××× 徳川王国、王宮前――。 「 さ、早く早く、行って、緋勇さん!」 背後の茂みからさやか姫が小声でしきりと檄を飛ばす。 「 わ、分かってるよ…!」 こんな作戦で果たしてうまく行くのだろうか?と疑問に思いつつ、龍麻はそろそろと跳ね橋の前に立つ衛兵に近づいた。 衛兵はすぐに龍麻の存在に気づき、訝しげな視線を向けた。 「 何だ何だお前は?」 「 あ、あの、こんばんは。いい天気ですね…」 「 はあ? 何だお前、ガキのくせに酔っ払っているのか。さっさとウチに帰って寝ろ!」 「 むっ、ガキじゃないってのに…! ご、ごほ…。い、いや、あの、ちょっとお訊きしたい事があるんですけど」 「 何だ」 「 おい、ワケの分からん奴と口をきくなよ」 龍麻の相手をしている衛兵を咎めるように別の若い男が渋い顔をした。そして厳しい顔つきで龍麻を睨む。 「 貴様などに答える事は何もない。さあさっさと立ち去らぬと王宮をうろつく不審人物として地下牢へ捕らえてしまうぞ!」 「 す、すみません! あの、でも、衛兵さんは…こんな夜中に見張りをしていて眠くならないんですか? 一晩中ここに立ってて疲れませんか?」 「 バカな。いかな俺たちでも一晩中ここに突っ立っているわけないだろう? ちゃんと時間が来れば交替が来るんだよ」 「 おい、もう喋るな」 「 お、す、すまん」 2人の衛兵が言い合うのを龍麻は黙って見つめながら、手のひらを何度かぐっぐと握り締め、そしてそれをぱっと開いた。 「 ラリホー!!」 「 !?」 龍麻はラリホーを唱えた!! 「 ……? 何だ、お前?」 「 え!?」 しかしラリホーは衛兵には効かなかった!! 衛兵はピンピンしている!! むしろ龍麻のヘンな動作で目が冴えた!! 「 お前、何してんだ?」 「 貴様! それは眠り魔法だな! 貴様、我らを眠らせてどうしようとした!?」 1人の衛兵は魔法に無知だったようだが、最初から龍麻に警戒していた方はラリホーの呪文を知っていた!! 龍麻は思いっきり怪しまれて剣を向けられた!! 「 あわわ、ごめんなさい…! 決して悪気は…!」 「 ええい、黙れ怪しい奴め! おい、皆来てくれ!!」 「 どうしたどうした!?」 龍麻のせいでぞろぞろと衛兵たちが集まってきた!! 龍麻は完全に囲まれてしまった!! 「 あ、わわわわ…!」 「 おい、どうした?」 「 こいつ、不審者だ! とりあえず捕らえて地下牢にぶち込んでしまおう!」 「 へ? こんなガキをか…?」 「 あんまり怪しい奴って感じもしないけどなあ」 「 いや、王宮前をうろつく奴は皆怪しい! 捕まえろ!!」 わらわらと集まってきた衛兵たちは口々に何かを言っては龍麻にじりじりと近づいてくる。 龍麻、絶体絶命のピンチ!! 「 ……あー、くそ!! やっぱこれじゃ駄目だったか! こうなったらもうヤケだ〜! 姫!!」 「 煙幕!!」 モクモクモク!! 「 ぐわっ、何だ!?」 その時、龍麻のかけ声と共に何かが茂みの方で光り、そして龍麻の前がもくもくと灰色の煙で覆われた!! 龍麻の姿は完全に隠れた!! 「 ま、魔法か!? お前たち、油断するな!!」 リーダー格の衛兵が煙幕に目を眩まされながらも危機迫った声を出した。 しかし、徐々に解けていく煙、そして再び現れた龍麻の姿に――。 「 !!!!!」 ピカー!!!! 衛兵たちは一瞬にして動きを止めた!! 誰もが龍麻を見ている!! すべての衛兵が龍麻に魅了されている!! 「 ううう…これだけはやりたくなかった…」 龍麻は魔法のメイド服を装備した!! 龍麻の魅力がめちゃくちゃ上がった!! しかし、龍麻は5のダメージを受けた!! 「 な…何とお美しい…!!」(バタリ) 「 神が作り賜った奇跡…!!」(バタリ) 「 け、結婚して下さい…!!」(鼻血ブー。バタリ) 衛兵は次々と龍麻に魅了され、その場にひれ伏して行く。皆幸せそうな笑顔と共に気絶していく。 「 すごい!! すごいわ緋勇さん!!」 茂みからさやか姫が狂喜乱舞して踊り出て来た。祈るように両手を顔の前で組み、キラキラと目を輝かせて龍麻をうっとりと見つめている。さやか姫も何気に龍麻に魅了されているようだ。 「 とってもお似合いです!! 素晴らしいです、緋勇さん!!」 「 ……ううう、苦しい……。もう脱いでいいだろ…?」 「 えーっ、どうしてですか。とっても可愛いのに!! こんな素敵な物は持っているだけじゃ駄目ですよ、ちゃんと着てあげなくちゃ!」 「 はー…。うっ、またしてもダメージが…」 龍麻は更に5のダメージを受けた!! 龍麻は慌てて茂みへ行き、メイド服を脱ぎ捨てた!! 「 ふふふ、何だかとっても得した気分♪」 さやか姫は龍麻のメイド姿にすっかり有頂天だ。 衛兵たちの気を何とか逸らして王宮へ渡る小舟を探そうという作戦を練っていた龍麻たちは、互いに「何か使えるアイテムや魔法がないか」と話し合った。その際にさやかが真っ先に目をつけたがのが、龍麻がローゼンクロイツ城攻略の際に手に入れた魔法のメイド服だった。龍麻は「一応」嫌だと抵抗したのだが、メイド服は龍麻にしか反応せず、龍麻にしか着こなせないアイテムだ。さやか姫を危険に晒したくないという霧島王子の意見もあり、結局龍麻が一番損な役回りをする事になってしまったのである。 「 ねえ、さやか姫。霧島王子はちゃんと小舟探してくれてる?」 「 あ、そうだったわ、霧島君――」 しかしさやか姫が振り返って王宮を囲む池の方角へ目線をやると。 「 ………」 「 …ちょっと、霧島君」 「 ………」 「 霧島君」 「 ………」 「 ……もしかしなくても、衛兵さんたちと一緒に緋勇さんに見惚れていたのね?」 「 ………」 「 もーう、霧島君っ。何ぼーっとしてるの、小舟は!?」 呆れたように声を上げるさやか姫に、しかし霧島王子は倒れた衛兵たちの数歩後ろでただ茫然と立ち尽くしていた。 霧島王子も龍麻に魅了されてしまっていたようだ。 「 ふーやれやれ。ひどい目にあった…。って、あれ?」 着替えを終えて茂みから出て来た龍麻は、さやか姫の背後で微動だにしていない霧島王子に不審の声をあげた。 さやか姫はため息交じりの様子で龍麻に向かって言った。 「 緋勇さん、私たちで小舟を探さないと駄目みたいです」 「 ちょ…!? それどういう事だよ、人が折角恥を忍んで時間稼ぎしてたのに、探してくれてなかったの!?」 「 霧島君を責めないであげて下さい、緋勇さん」 さやか姫は近づく龍麻の手をぎゅっと握りしめてからにこりと笑って言った。 「 恋する少年に罪はないです。すべては可愛らしい緋勇龍麻さん、貴方のせいなんですから」 「 は、はあ…?」 「 ………」 霧島王子は困惑する龍麻、にこにこしているさやか姫の前で、未だボー然としたままだった。 しかし龍麻たちは王宮の見張りたちを幸せな眠りに誘う事に成功した!! 《現在の龍麻…Lv15/HP75/MP70/GOLD7510》 |
【つづく。】 |
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