第74話 戦闘は省略でいいよね

  突然だが、話は「奴ら」の断末魔から始まる!!


「 ピギャ〜〜!! そそそそんなバカなああああ!!」
「 まだ1ターンも戦ってないのにやられるのかあああ!!」
「 幾ら脇役だからってあんまりな扱い〜〜〜!!!」



  更新を数日置いている間に龍麻たちvsモンスター3体の戦いは終了した!!
  龍麻たちは徳川王宮に居ついていたモンスター3体を倒した!!
  1000の経験値を獲得、530ゴールドを手に入れた!!
  戦闘終了――。





「 ふう〜何て苦しい戦いだったんだ…」
「 ……こんな手抜きで許されるんでしょうか」
「 何ぶつぶつ言ってるの霧島君! ナイスファイト! カッコ良かったわよ!!」
「 いや…そんな戦ってもないんだけどね(汗)」
  モンスターが消滅して、さやか姫は宝物庫の外で傷ついた兵士を抱きながらガッツポーズをしているが、霧島王子は活躍の場面が省略されたせいか複雑な表情をしている。
  龍麻は汗を拭いながらモンスターがいた場所をじっと見つめている如月に近づいた。
「 翡翠?」
「 ………」
  如月はすぐに龍麻に答えなかった。
「 どうしたんですか龍麻さん」
  霧島王子がそんな2人に気づいて傍に寄る。それから如月が落としている視線の先に自分も目をやって不審の声を上げた。
「 あ…これは先ほど神官が持っていた玉と同じ物ですね」
「 何? さやかも見る!」
  さやか姫も兵士を横たわらせた後、自分も見たいとばかりに近寄る。そうして床に転がっている3つの勾玉を見つけ、目を輝かせた。
「 さっきの宝石! 綺麗ね!」
  しかしさやか姫がそれに手を伸ばそうとした時だった。
「 触るな!」
「 きゃっ」
  如月が突然声を上げてそれを制した。さやか姫はびっくりして手の動きを止めた。
「 ひ、翡翠…?」
「 な…何なんですか貴方は! この方はこう見えて鳳銘国の次期国王となられる第一王女さやか姫ですよ! 姫に対する無礼はこの僕が許さない!」
「 霧島君。今、貴方もさり気な〜く無礼な口きいてたわよ…」
「 えっ、そんなわけないよさやかちゃん! 僕はいつだって君を第一にだね…!」
「 あ、龍麻さんが怪我してる!」
「 大丈夫ですか龍麻さん!?」
「 嘘よ」
「 ……さやかちゃん【怒】」
  また漫才を始めた2人に龍麻は張り詰めていた気持ちを少しだけ抜いてほっと息を吐いた。
  けれどもすぐに、依然として厳しい目をしている如月を心配そうに見つめた。
「 翡翠…」
「 あの、翡翠さん…ですか? その綺麗な宝石、どうして触っちゃいけないんですか?」
  気まずい空気を破ったのはたった今叱られたばかりのさやか姫だ。めげない姫に苦笑しながら霧島王子がもっともな意見を述べた。
「 そりゃさやかちゃん。これは徳川王宮の宝なんだから。僕たちが持っていったりしたら駄目だろ?」
「 そうじゃない」
  しかし如月はすぐにその答えを否定した。まだ目はその勾玉に注がれている。
「 翡翠…?」
  龍麻が不安そうに呼ぶと、如月はここでようやく視線を上げた。
  そして言う。
「 これには触れない方がいい…。これが地下から王宮に運ばれるようになってから、城の者たちは変わった」
「 え…?」
  驚いて聞きかえす龍麻に如月は一瞬苦しそうな顔を見せた。あ、と思う。いつも何を考えているのか分からないような無表情ばかりなのに。
  龍麻の胸はそれでズキンと痛んだ。
「 東の塔に行ったのか、龍麻」
「 え…ううん。行こうと思ったところに、あの兵隊さんがさっきのモンスターにやられてるの見て…。まだ行ってない。西の塔には言ったけど」
「 何…」
「 あのな、俺たち疲れた顔したお爺さんから伝言頼まれたんだ。あ、その人徳川王のお父さんだってこの2人は言うんだけど。『この城を滅ぼすつもりなら、まずは自分から殺しに来い』って言ってくれって…」
「 ………」
「 あの、すみません」
  すると霧島王子が龍麻と如月の間に入るようにして歩み寄って来た。
「 一体この国では今何が起きているというのですか。見たところ、貴方は…翡翠さんはこの王宮に仕える方のようですから、少しはここの事情が分かっているんですよね」
「 徳川王はご無事なんですか!? さっき、あいつはご病気だなんて言ってましたけど!」
  さやか姫も心配そうに口を継ぐ。如月は眉をひそめた状態で龍麻に「彼らは?」と短く訊いた。
「 あ、あのさ。実はさっき城の外で知り合ったばっかりなんだ。鳳銘国っていうところのお姫様と王子様をやっているさやか姫と霧島君だよ。俺と一緒で徳川王に会いたいって言うから協力してここに侵入したんだ」
「 ……侵入」
「 あっ…その…」
  如月が露骨に嫌な顔をしたので龍麻は途端にバツが悪くなって俯いた。
  如月はそんな龍麻を見やった後、ため息をついてから口を開いた。
「 何故王にお会いしようなどと考えたんだ」
「 え、だって…」
  龍麻は改めて訊かれて「そういえば何故だったろうか」などと思いながらも、たどたどしくこれまでの経緯を話した。
「 俺…。とにかく、この国やこの国の周辺で何が起きているのか知りたかったんだ。最初から王宮に入ろうって思ってたわけじゃないよ、それは成り行き。でも、翡翠も俺に何か隠し事して何処へ行くか教えてくれないし、それにお前…何か1人で抱え込んでるみたいだったから…」
「 ………」
  如月の瞳が微かに揺らいだ。龍麻は慌てて続けた。
「 も、勿論お前の事だけじゃないよ! 最初に言っただろ、ここで起きてる事が知りたかったって。だから、とにかく……色々探ろうと思って外に出たら…ま、まあ、色々あって……こういう事に」
「 色々ね。全く答えになっていないな」
「 な、何だよ! 色々は色々なんだよ! だ、大体俺の事なんかどうでもいいんだよ、それより翡翠だよ! なあ、翡翠の主って、徳川王の事だったのか!?」
「 ……そうだ」
「 ……っ」
  如月の答えを今さら驚きはしなかったけれど、龍麻は眉をひそめた。
「 だったら…。なあ教えてくれよ。どうしてこのお城の中はこんなになってて、呪いだ何だって物騒な話になってて…。それで王様は人が変わっちゃったりしてるの!?」
「 龍麻さん、質問が入り乱れてます」
「 龍麻さんも混乱しているのよ」
  横で王子と姫がそれぞれ口を挟んだが、如月はそれには反応しなかった。そしてそれは龍麻も同じで、2人は暫し互いに見詰め合った格好になったまま押し黙った。
  その交錯した視線を先に外したのは如月だった。
「 王がどのように変わられようが、僕の忠誠心に変わりはない…。自分自身そう思っていた。ずっと」
「 翡翠…?」
「 だが王はある日突然ダゴン以下、得体の知れない者たちを次々臣下に加え、傍に置き始めたんだ。……それ以来王宮内は暗い噂が絶えなくなった。城の者たちは皆無気力になるか強欲になるか残虐になるか…。恐らくはあの勾玉の影響だろうが、徐々に人が変わり、そして姿を消し始めた」
「 姿をって…あ!」
  龍麻はターフ村で突然消えた影を思い出していた。水岐が「あれは徳川の役人だ」と言っていたように思うけれど、その後を追って遭遇したのはあの魚人で…。
「 え、えーとえーと…。俺、頭がどうにかなりそうだよ…。いなくなってるのは村の人たちだけじゃなくって…。役人さんが消えた先にいたのはあの魚人で…。さっきも神官さんが魚人に変身してたし…」
「 そもそも何で人が人でない者に変わるの?」
  さやか姫の問いに如月が答えた。
「 鬼道だ」
「 鬼道…?」
「 王宮に呪いを放った者がいる。王に取り入り、中から操作していたダゴンは恐らく末端…。地下の増上門の向こうに魚人の巣窟を作っている者がいるはずなんだが…」
「 あ! アランが向かったってところだな!」
  龍麻が叫ぶと如月は目だけでそれを肯定した。
「 そ、それじゃあ早くそこに行こう! アランを助けなくちゃだし…! この城に呪いを放った奴らを…」
  言いかけて龍麻は思わず口を閉じた。
  一瞬、まさかという思いが脳裏を過ぎる。
  あの時、岩角は言っていた。徳川国に呪いをばらまき、人々を困らせていると。そして、あの勾玉が自分にパワーを与えてくれると。
( まさか…本当に鬼道衆さんたちが…)
「 どうしたんです、龍麻さん?」
  急に黙りこんだ龍麻に霧島王子が声を掛けた。龍麻が慌てて頭を振ると、さやか姫が焦れたように言った。
「 何だかよく分からないけれど、とりあえずはこの事を王様にご報告した方がいいんじゃないですか? 王様が雇ったダゴンさんが実はモンスターでお城に呪いを振りまいてましたって」
「 さやかちゃん。そんな明るく報告できるわけないだろ。大体、徳川王は知っていてダゴンを城に入れたのかもしれない」
  霧島王子の発言に一瞬周囲はしーんと静まり返った。
  一番に激昂したのはさやか姫だ。
「 ちょっと霧島君! 今貴方、ものすごくとんでもない事言ったわよ!? 徳川王が何ですって!? そんな事あるわけないじゃない!!」
「 落ち着きなよさやかちゃん」
「 これが落ち着いていられるわけないでしょ!!」
「 僕が言いたいのは、ご病気だと仰ってずっと臥せっておられるのが本当に徳川王なのかという言う事さ」
「 ……何よそれ。どういう意味」
「 翡翠さん。どうなんですか」
  2人の会話を黙って聞いていた如月は一拍置いた後、無機的な声で答えた。
「 ……君が考えているような事はない。王が化け物にとって変わっているという事などない」
「 何故そうと言い切れるんです? そう考えるのが自然ですよ。あまり言いたくはないですが、王は即位の後、モンスターに襲われ入れ替わられて、今はその偽りの王が城内で好き勝手に暴れている…と考えるのが―」
「 霧島君!」
「 霧島君、それはひどいよ…」
  さすがに龍麻も弱々しいながらも声を出した。しかし霧島王子はまるで揺るがなかった。
「 否定したい気持ちは分かります。ですが本来の王がモンスターを城内に入れたという方が余程ショッキングな出来事だと思いますが」
「 ご寝所におられるのは我が王だ」
  しかしそれをきっぱり否定したのは如月だった。今度はもうまるで感情のない顔をしていたが。
「 王がモンスターと入れ替わっているなどという事実はない。だからこそ僕は今まで動かなかった。いや…動けなかったんだ…」
「 翡翠…」
「 ダゴンらは封印された地下神殿から銀を掘り起こしていたが、それと同時に広まったあの勾玉の秘密を探る為には、どうしても増上門の扉を開く必要があった。だが、王は僕に地下へ行く事を許しては下さらなかった」
「 何で…」
「 それが国を守る事だと信じられたからだろう」
「 ……?」
  如月の話は龍麻には全く分からなかった。
  分かっているのは、徳川王が国を良くない方へ向かわせていると分かっているのに、如月がそれを止められずに苦しんでいるという事で。
  とにかくこのお城は呪われているという事で。
「 翡翠…」
  だから龍麻は訊くのを止めた。
「 翡翠、言っただろ? 分からない事があるなら自分で探ればいいだろうって。だから俺…ちゃんと自分の目で確かめたいんだ。何が起きているのか知りたいんだ」
「 龍麻…」
「 だから俺、そうする。それと…」
「 龍麻ッ!?」
  如月が声をあげた時、龍麻はもう床に落ちていた勾玉を手にしていた。それはもう光を失っていたが、龍麻が手にした事で一瞬だけ妖しく輝き、そして音もなく消滅した。
「 な…」
  如月はそれに驚愕し、信じられないものを見るような目で龍麻を見つめた。
「 こんな物、全部ぶっ壊そう! 何か分かんないけど、とにかく良くない物なんだよ、これは!」
  如月の驚きが何を示しているのかもよく分からないままに、龍麻は強い口調でそう言った後、残り2つの勾玉も自らの手の中で消滅させた。



  《現在の龍麻…Lv15/HP75/MP70/GOLD8040》


【つづく。】
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