第97話 そんな関係 |
「 龍麻! 無事だったか!!」 「 ひひひひーちゃん!! ひーちゃんなんだね、本当に!?」 「 OHタツマ! 今まで何処行ってタノ!? ボク、トッテモトッテモ心配したヨ!」 「 醍醐、小蒔ちゃん。それにアランも…。ごめん」 マリィに手を引かれてやって来たのは徳川王国の宿屋だ。宿屋はここへ来る途中にも幾つかあったが、ここが一番大きい。部屋は二階にあるのだろう、一階の広間は客が寛げるソファが幾つかと、奥は酒場になっていた。 そこに待ち構えていたようにして偶然いたのが先の3名だった。 「 ひーちゃんっ。大丈夫!? 何処か怪我とかしてない!?」 「 龍麻!! 本当に今まで一体何処に行ってたんだ!?」 「 ボクのアミーゴ! あの祠で急に消えタ、一体ナゼ?」 「 え、えーっと…」 いきなり矢継ぎ早に質問され、龍麻は困ったような顔で3人を交互に見やった。それからどうしようと背後を振り返る。 天童はマリィと対面した時と同様、知らぬ存ぜぬでただ宿屋の内装を眺めやっていた。 「 ん…龍麻、そこにいる者は…?」 醍醐が逸早くそんな天童に気づき、不審の声をあげた。龍麻は慌てて皆に向き直った。 「 あ、えーっと、こいつは九……天童って言うんだ。俺の友達で…」 「 友達?」 「 あ、あの。祠から飛ばされた先で会ったんだ。一緒に来るって言うから…」 「 そっかぁ…。ひーちゃん、また新しい仲間増やしたの? まったく、何処へ行っても凄いよなあ…」 桜井がどことなく慣れたような、それでいてがっくりしたような顔で言った。 それからふと気づいた風になって慌てて口を継ぐ。 「 それよりひーちゃん、ずぶ濡れじゃないッ。ここの雨に濡れちゃったんだね。とりあえず聞きたい事はたくさんあるけど、まずは服を着替えてきなよっ。ボクたちはここで待ってるから」 「 ああ…そうだな。それがいい。今この宿屋は俺たちの貸切だ。仲間たちとの集合場所にも丁度良いからと如月の屋敷からここに移ってきたんだが。龍麻には一番奥の部屋を取ってあるからそこへ…」 「 えっ、えっと! でも、今ここの状況も…! 徳川が大変だって聞いて、俺…っ」 龍麻が焦った風に言うと、アランが安心させるようにニコリと笑った。 「 アミーゴ、大丈夫。まだキミが一休みする時間くらいアルヨ。ここ入ってくる時分からなかっタ? 今、この国ボクたち4神の《力》デ結界張ってル。そうそう悪い氣は近づけナイし、地下のアイツも交替でボクたちが見張ってるカラ」 「 あ…」 「 そうそう。大丈夫だよひーちゃん。仲間の半分以上はひーちゃん捜索隊で出ちゃってるけど、如月クンとか、あと雪乃やボクたちが! ここは食い止めてるからサ!」 「 ……翡翠」 「 そう! ひーちゃんが戻ったって教えなきゃね! 如月クンもひーちゃんの事凄く心配してたからさ! あっ! それは勿論ボクもそうなんだけど!」 「 ご、ごほん。それは勿論俺も…」 「 ボクもだヨ、アミーゴ!」 「 マリィも! マリィも龍麻パパのこと心配してたヨ!」 「 皆…」 明るく振舞ってくれる仲間たちを前に、龍麻は微笑みながらも罪悪感で胸がキリリと痛くなった。1度は役立たずで力のない自分などいなくても良いと思った。ここにいる天童に殺されても良いとすら思っていたのだ。だからあの祠から旅の扉を開いて天童の元へと行ってしまった。桜井たち仲間がこんなに自分の事を必要とし、心配してくれているというのに。 「 本当にごめん。俺、頑張るから」 「 ひーちゃん?」 項垂れる龍麻に桜井たちはきょとんとしている。マリィは沈んだ様子でいる龍麻の手を両手で引っ張るようにして握り、何事か訴えるような目をして見上げていた。 「 俺…」 龍麻はそんなマリィを優しく見下ろしながら首を振った。 「 うん。俺、頑張るから! それで皆の役に立つ為にも体力早く元に戻すよ! 早くあそこへ…壇上門へ行かなくちゃ!」 「 ひ、ひーちゃん…?」 「 龍麻…。何だか…お前、この姿を消している間に何かあったのか? その…凄く…」 桜井と醍醐が途惑いつつ口を濁すのを、アランがさっと補足した。 「 アミーゴ、何だかトテモ強く見えル。随分とレベルアップしたんだネ!」 「 ……うんっ」 龍麻はそんな仲間たちに今度は力強く頷き微笑んだ。 「 わ…わあっ!?」 「 ……何だ。デカイ声出しやがって」 「 だ、だって…」 皆に「まずは着替えて来る」と告げて龍麻が先ほど説明された部屋に入ると、そこには既に天童がいた。 「 何固まってんだよ」 天童の問いに龍麻はしどろもどろになりながら答えた。 「 ド、ドア開けたらいるからさ…。急にいなくなって、何処行ったのかと思ったよ…」 「 ここにいんだろ」 「 いるけど…。何で裸なの」 扉を開いた先に上半身裸の天童がいたので、龍麻は思わず声を上げたのだ。同性の裸など別段どうという事もないはずであったが、意表をつかれていたし何より視界に飛び込んできた天童の上腕は一目見て分かる程の酷い傷跡があった。古いもののようだが、以前の激しい修行か戦闘かを想起させるものだ。 だから驚いた。 「 ここの雨は俺には毒だ。着替えくらいさせろ」 「 ま、まあ…そりゃ…風邪引いたら大変だもんな」 「 はっ」 「 な、何だよ?」 「 別に。しかしお前らの仲間は何だ? 衣装屋でもやってんのか?」 「 へ……。う、うわあ…」 最初に天童を見て驚き、次に改めてその部屋の中を見回した事で龍麻はまたしても驚いた。 醍醐たちが「龍麻の為に取っておいた」と言ってくれたその部屋はこの宿一番の部屋に違いない。豪奢なカーペットに品の良い調度品、窓際には天幕の張られたキングサイズのベッドがあって、更に衣装ダンスは3つもあった。おまけにその中には溢れんばかりの色とりどりの服が仕舞われていたのだ。 「 な、な、何なんだここは…? 王族とか貴族が泊まる宿か!?」 「 違うだろ。一介の宿屋がここまでやるかよ」 「 じゃ、誰が…。ハッ、こ、これは!?」 おもむろに取った服の袖口に龍麻は目を剥いた。試しに他の服も見てみたが、「それ」がついているのはこれだけだ。しかしこの、これみよがしにつけられているそのブランド名と値札に龍麻はたらりと汗を流した。 「 どうした」 不審な顔をする天童に龍麻は「へへ」と力なく笑った。 「 美里が置いていってくれたんだ、きっと。これ、ボサツショップの品だ。道理で上等だと思った…」 「 菩薩ショップだ?」 「 うん。美里がやってるお店の名前だよ。どっから出してるのか知らないけど、凄くたくさんの商品を持っていて、俺の服とかも…美里が店の商品から見繕ってくれたんだ」 「 菩薩…」 「 美里も1回ここに来たのかな。それともマリィにでも持たせたのかなあ。何にしても着替えあって助かったけど」 「 ……確かにおかしな商売してるって話は聞いた事あったがな」 「 え…あ、そういえば天童って美里と親戚なんだっけ? 一体どうし…!?」 けれど龍麻はその質問を最後までする事ができなかった。 「 わっ…」 「 龍麻」 ぐいと腕を引かれて体勢を崩されたまま、龍麻は天童によって傍のベッドに押し倒された。 「 な…何、天童…」 「 お前はホントにおかしな奴だな…。腑抜けた仲間どもだけじゃねえ、あの悪魔な女…美里の奴まで懐に入れちまう」 「 え? 何?」 「 どういう力を使ってんだって訊いてんだ」 「 どういう…って…ひゃっ」 突然顔が近づいたと思った瞬間、耳を軽く齧られて龍麻は素っ頓狂な声を上げた。 「 な、な、何するんだよっ」 「 おかしな声出すんじゃねえよ。興冷めだな…」 「 なっ…!? ちょ、何処触っ…!?」 突然の事にまるでその展開についていけない龍麻はただ途惑いの声を上げる。上から覆いかぶさるようにしてきた天童に片手を拘束され顔を寄せられたかと思うや否や、今度は膝で両足をこじ開けられた。そうして空いた方の手でその股間に触れられて。 龍麻は完全なパニックに陥った。 「 やっ…」 「 魔法か? それともココを使ってあいつらを手なずけてんのか、どっちだ?」 「 やめ…どうしたん…だよ、天童…っ。急に…あッ」 「 あいつら4神が張ったここの結界にも気づかないくらい、お前の力はまだ未完成だ。なのに…ハッ、既に次々集まってやがる…。この俺すらこんな所まで連れてきやがった。……おかしな奴だ」 言いながらむしりとるように濡れた服を脱がせにかかる天童に、龍麻はただ驚きと混乱で口をぱくぱくさせた。天童の言っている意味も分からなければ、今突然訪れたこの状況にもまるで理解が及ばない。濡れた服を着替えさせてやっているにしても、この体勢は明らかにおかしい。しかも衣ごしにとはいえ、「あんなところ」まで触られてしまって……。 「 ひ、ぁ…っ」 急にぴりりと熱が走る。龍麻はきゅっと目を閉じた。 「 ……なるほど」 上から妙に感心したような声が降って来た。 「 あ…天…」 「 龍麻」 けれど呟いた天童が龍麻に改めて近づき唇を寄せてきた、その時。 「「「「龍麻・ひーちゃん・アミーゴ・龍麻パパ!!!!」」」」 4人の怒声が宿屋を揺るがす程に響き渡った。 「 ………っせえな!」 これにはさすがに天童も眉を寄せたまま動きを止めた。バタンと勢いよく開かれたその扉の音と同時、耳をつんざいたその世界の危機のような4人の声はベッド脇の窓ガラスすら割ってしまった! 「 ひひひひーちゃんっ!!! 何何何、この状況は一体何〜!!?」 「 ききき貴様ッ! たたた龍麻から、ははは離れろ〜〜〜!!!」 「 OH、そんなアミーゴ!! まさかボクたちと離れている間にその男と!? ソンナ関係に!?」 「 龍麻パパ、浮気しちゃダメ!! マリィ、葵ママに言われテル!! 龍麻パパのテイソウ護るようニッテ、近づく人間ミンナケシズミダッテ!!!」 「 いや〜! ひーちゃん、思い直して〜!! そんなのひどいよこんなのないよーっ!! エンディング前に誰かと結ばれるなんてご法度だよ〜!!」 「 ……あ、あの。みんな……?」 「 ちっ…。雷角たち以上だ、こいつら…」 呆れたように天童が龍麻から離れた。ベッドから下り立つ瞬間、撫ぜるように龍麻の髪の毛に触れ、頭を撫でてきたが、そんな天童の所作に気づいたのは当の龍麻だけだった。 「 天童…?」 「 少し出てくるぜ。バカバカしくてこんな所いられるかよ」 「 ちょっ…天童、何処に…!」 「 だめー!! ひ−ちゃん、行かないで〜!!」 「 そうだぞ龍麻! どういう事なのか俺たちに説明してくれ!!」 「 龍麻パパ、浮気はダメ〜!!」 「 あ、あのねえ!! ちょっと! 天童!!」 しかし皆に押さえつけられがんじがらめにされているせいで、龍麻は自分を置いて部屋を出て行く天童の背中をただ見送る事しかできなかった。九角家の生き残りである天童が独りでこの国をうろつくなんて心配過ぎる。大体、何故彼が一緒にこんないわゆる敵国に来たのかもまだきちんと訊いていないというのに。 「 天童っ」 それでも天童は龍麻を振り返る事なく出て行ってしまった。殆ど泣き叫ぶ勢いで問い詰めてくる仲間たちの誤解を解く事もなく、何事もなかったのように。 そして。 「 あつ…」 龍麻の身体の深奥に、不可解な熱を残したまま……。 龍麻のHP、MPは共に完全回復した!! 《現在の龍麻…Lv20/HP110/MP95/GOLD117950》 |
【つづく。】 |
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