第98話 遅い出番に怒ってる? |
針のムシロとはこの事だ。 「 あ、あのさあ、みんな…」 スプーンを口に含んだままという行儀の悪い格好で、龍麻は宿屋の1階、食堂で仲間たちに囲まれながらの遅い夕食を摂っていた。ちなみにメンバーは4神のうちの3人、醍醐、アラン、マリィ。それから桜井小蒔である。 「 そんなに見られてたら食べづらいんだけど…」 「 じとー」(by小蒔) 「 厭味ッポク、ジト…」(byマリィ) 「 ボクも見るです、ジロジロ〜」(byアラン) 「 いや、まあ。つまりだな…」 最後に3人を代表して醍醐が咳払いをした後、言う。 「 ああ、何だ。つまりこの話が更新されるのも恐ろしい程久しぶりだし、俺たちも久しぶりの龍麻の顔をじっくり観察したいと言うことだ」 「 は?」 「 じゃ、なかったな(汗)。そんな事じゃなく…つまりは、お前はこの何日間か何処へ行っていたのかという事だ」 「 そんでもってあの天童クンってのとはどういう関係なの〜!!」 「 龍麻パパ、浮気ダメ!!」 「 OHソウネ! ボクたち、アミーゴが戻るまで必死にこの国護ってたのに、その間にアミーゴが浮気してたなんてショック過ぎるね〜!!」 「 だから違うってば!!」 先ほどからこれの繰り返しだった。龍麻はスープの皿へ手にしていたスプーンを放り投げると、椅子に背中を寄りかからせ、ため息をついた。 「 俺だってよく分からないよ、何で天童があんな事したのか…! でも、天童は友達! え、えっと…暫く消えてたのは…そう、自分の力不足を痛感してて…それで、レベルアップする為に修行してたんだよ!」 「 ……本当に〜?」 「 本当だってばっ」 「 ……どう思う、みんな?」 ひそひそと小声のつもりの大声で桜井がアランたちに耳打ちした。 「 ソウネ、確かにまだ手は出されてナイって感じスルヨ。アミーゴ、こんな嘘つけナイ」 「 そうだな。俺もまだ龍麻の貞操は無事だと見た」←はっきり言いすぎ 「 マリィも思った! まだ大丈夫ソウ!!」←君はどこまで分かっているんだ 「 それに…」 とりあえずそっち方面の疑惑を払拭したところで、醍醐が気を取り直したように続けた。 「 確かに龍麻の力は以前と比べ物にならんくらい上がっている。何をどうしたのかは知らないが…。あの旅の扉は龍麻に何か得難いものを与えてくれたのかもしれないな?」 「 あ…うん」 「 その代わりに失ったものもあるかもしれませんわよ」 「 え…?」 「 雛! どうしたの急に!」 突然現れたその人物に桜井が声を上げた。 龍麻が途惑っていると、その目の前に現れた人物―長い黒髪を有した繊細そうな顔立ちをした美少女―は、手にしていた長弓を傍にいた宿屋の従業員に預けるとふっと目を細めた。 「 姉様と交替してまいりました。もう数時間も印を結んでいたのでさすがに疲れてしまいましたもの」 「 あ、そ、そっか…。お疲れ…」 少女のその言葉に桜井が慌てたように立ち上がり、自分の席を譲った。 少女は軽く礼をしてそのままその場所―龍麻の隣に座った。 「 織部雛乃と申します。緋勇龍麻さま」 「 え…」 「 ひーちゃん、この子はねッ。ほら、祠でも会ったんでしょ? 雪乃! あの子の双子の妹で、こう見えてもラーマ神殿のシスターなんだよ。偉い地位の!」 「 シスター…?」 「 はい、緋勇さま。《こう見えても》シスターをやっています、雛乃です」 「 あ、あはははは〜。ちょっと何その棘のある言い方〜」 「 ふふ…。だって小蒔がわたくしをそう紹介したのでしょう?」 「 い、いやあ…(焦)。ほらだって、雛っておしとやかに見えて、こんなおっきな弓使いこなすし…」 「 小蒔には敵いませんよ」 「 は…はは…は」 にっこりと笑っているのだが何故かその笑顔が寒々しい。桜井はたらりと冷や汗を垂らした後、逃げるように「雛のご飯、持ってきてあげるね!」とその場を去り、アランや醍醐も何故かそそくさと「城を見てくる」と宿を出て行ってしまった。 「 え? え?」 その事態に龍麻が何故かぽかんとしていると、マリィが傍で服の袖をくいくいと引っ張った。 「 あのね、龍麻パパ。雛乃のオ姉チャンハ、怒るとトッテモ怖いのヨ」 「 え?」 「 小蒔のオ姉チャンも言ってタ。神官長の雪乃オ姉チャンより雛乃オ姉チャンの方がランボウモノなんだッテ!」 「 へ、へえ…」 雪乃とはほんのひと時しか話していないがインパクトの強い女性だったからよく覚えている。口調も乱暴で男の人みたいだった。あんな彼女よりも、ここにいる彼女の方が「ランボウモノ」とは…。 「 ふふ…緋勇さま」 「 え」 するとその乱暴モノらしい雛乃は実に美しい眼差しで龍麻を見るとおっとりと笑んだ。 「 わたくしは至って無害な人間です。マリィちゃんに悪い事を教えた小蒔には後でよく言っておきますね」 「 は…」 「 けれど、わたくし決めてますの。わたくしは神の御使い。ですから、その神の愛した土地を汚す行いをしたモノたちには、それ相応の報いを与えねばならないと」 「 ……っ」 「 ですから、わたくしも頑張って戦います」 その静かながらやたらと迫力ある様子に龍麻は思わず息を呑んだ。ちなみにマリィも固まっている。 そんな2人には一切構わず、雛乃はただ行儀よく椅子に座ったまま、視線は前へ向けた状態で続けた。 「 この国はひどい状態です。倒しても倒しても異形が集まってきます。そんな―」 そして一拍おいた後、雛乃は龍麻を見て言った。 「 ……そんな危機的状況において、勇者である貴方様は一体どちらへお出掛けでしたの?」 「 え…」 「 翡翠さまの貴方さまに対する信頼を考えた事がありまして?」 「 …っ!」 雛乃の言葉がツキンと胸に突き刺さった。龍麻は声が出せなかった。 「 お待たせ雛…あれ?」 そんな重苦しい沈黙の間をぬって桜井が食事の乗った盆を携えて戻ってきた。しかし何やら尋常でない雰囲気の2人に足と口を止める。 「 緋勇さま」 けれど雛乃はそんな桜井には構わず凛とした声で言った。明らかに腹を立てているようだった。 「 貴方は翡翠さまにふさわしくありませんわ。この戦いが終わったら…国に帰って下さいましね」 「 ………」 思えば自分にこんな風に怒ってきた人は初めてかもしれない。 そんな事をぼんやりと考えながら、龍麻は小さく「ごめん」と言った。 龍麻は織部雛乃と知り合った! しかし彼女が仲間になるかどうかはまだ分からない!! 《現在の龍麻…Lv20/HP110/MP95/GOLD117950》 |
【つづく。】 |
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