「洗濯」を選んだ場合



 龍麻が外下の町を見下ろせる丘と面した庭で洗濯物を干していると、不意に側の大木から人がふっと現れました。背の高い、鋭い眼をした青年でした。

「失礼…。こちらは、阿師谷太一の館ですか」
「あ、はい。そうです」
 龍麻が丁寧に答えると相手は少しだけ奇異の目で龍麻を見つめましたが、気を取り直したようになって再び口を開きました。
「君は…この館の使用人か何かかい」
「え…いえ…」
 でもここの一族の者だと言ったら、家族は迷惑するだろうか。こんなみにくい僕だから…。
 龍麻が躊躇していると、相手も困ったような顔をしてから一つ咳払いして言いました。
「僕は彼と同じ学校に通う壬生紅葉というものです。実は…今日、彼に怪我を負わせてしまって…」
「えっ!! 兄さんがっ!!」
 思わず叫んだ龍麻に、壬生と名乗った青年は驚いたように目を見開きました。
「兄さん…って…。君が、阿師谷の…?」
 はっとして口を抑えた龍麻でしたが、もう遅く…。龍麻は父さんや兄さんたちに叱られるところを想像して、また哀しくなってしまいました。
 そうとは知らない壬生青年は龍麻が兄の負傷を悲しく思ったと勘違いしたのでしょう。申し訳ないような顔をして頭を下げてきました。
「君の兄さんに怪我をさせたことを謝ります。だから、どうかそんな哀しい顔…」
 言いかけて、壬生青年ははっとしたようになって黙りこくりました。自分の言葉に戸惑ったような感じです。
 龍麻はそんな壬生青年に少しだけ不思議そうな顔を見せましたが、やがて「それで兄さんは…?」と訊ねました。
 壬生青年はそれを訊かれ、ますます困ったように「実は…入院三ヶ月で…」と答えたのです。



 それに対して龍麻は…?

@ 悲しいと思う
A 嬉しいと思う