「はい、そうです」と答えた場合



「…だったら、君のその馬鹿な兄さんに伝えておいてくれたまえ。今度理由なく僕に近づいてきたら、その時こそ容赦はしないとね」
「容赦って…」
 龍麻はずたぼろにやられた麗司兄さんの亡骸(まだ死んでない)を見ながら、思わず口走っていました。
「こ、こんなにひどくなるまで、痛めつけておいて…。一体、僕の兄さんが貴方に何をしたって言うんですか!?」
「何を、だって?」
 龍麻の詰問に、相手は思い切り気分を害したようでした。眉間に皺を寄せ、やや龍麻の方に近づくと、これでもかというほどの冷たい視線を投げつけてきます。
「そんな事は君の兄さんに直接訊けばいい。とにかく、僕はこれ以上君の兄さんのくだらない言いがかりに関わっていられるほど、暇じゃないんでね」
「言いがかり…?」
「ああ、そうさ。…ん、どうやら大切な兄さんが目覚めたようだよ」
「!! 兄さん!!」
「う…く、くそう…如月、め…」
 麗司兄さんが怨念のこもった声でそう言ったことで、龍麻は目の前の青年が「如月」という名前だということが分かりました。
「兄さん、一体どうしたの!?」
「た、龍麻…? お前、何だってこんな所にいるんだ…?」
「父さんにお使いを頼まれて…。それより、一体どうしたっていうの!?」
「うるさい…お前なんかに関係ない…」
 麗司兄さんは悔しそうにそれだけを言うと龍麻を振り払い、よろよろと立ち上がって目の前の「如月」青年を睨みつけました。
「お、お前なんか、お前なんか…! いつか、この僕が倒してやるからな…っ!」
「………」
「に、兄さん…?」
 黙って麗司兄さんを見据える「如月」青年。それに、憎悪の炎を燃やす麗司兄さん。龍麻はただオロオロとしています。
 その時、麗司兄さんが堰を切ったようにまくしたてました。
「お前みたいに! 頭が良くて! スポーツもできて! 顔も良くてお金もあって…! それにそれに女の子にモテる男は、僕の永遠の敵だああああ!! いつか、いつか呪い殺してやるからなあああ!!!」
「……………麗司兄さん?」
 兄の発言に目が点になった龍麻は、ただ呆然としてしまいました。その側で、如月青年も呆れたようにため息を一つつきました。
「馬鹿馬鹿しい。君みたいな人間とこの場にいるのも時間の無駄だ。僕はもう失礼するよ」
「くそう、そのうちそのうち…!」
 麗司兄さんはまだぶつぶつ何か言っています。そして、如月青年はちらとだけ龍麻の方を見てから、やがて去って行こうとしました。



 さあ、それに対して龍麻は…?

@ 黙って見送る
A 如月を呼び止める