天童が奥の座敷に通された後、しばらくして、「その」ひーちゃんはやってきた。
「あ、あの…失礼します」
「………」
おずおずと部屋に入ってきたのは、「あの」緋勇龍麻だった。黒い前髪に隠された大きな純粋な瞳。学生服から僅かに覗く白い肌。どこからあの《力》が、と思われるほどの華奢な身体。間違いない。以前に闘い、そして自分を倒した緋勇龍麻だ。
「………」
思わずあの頃の気持ちがふっとよぎり、厳しい眼をして目の前の青年を見やってしまう。向こうは相変わらず自信のなさそうなおどおどとした様子で、こちらのことを上目遣いに見ているだけだ。
「おい」
「は、はい…っ」
「そんなところでぼーっとしてねえで、もっとこっちへ来いよ」
天童が荒っぽくそう言うと、また龍麻はびくっと肩を揺らしたが、しかし意を決したようにそろそろと部屋の中へと入ってきた。そうして天童の前まで来ると、ぺこりと頭を下げた。
「あ、あの、天童…。誕生日、おめでとう」
「……可愛いじゃねえか」
「え…?」
きょとんとして聞き返す龍麻に天童は決まりが悪くなってふんと横を向き黙りこくった。そして、何故自分はこんな弱々しい奴に負けたのかと腹立たしくなってしまった。
まあ、いい。これは夢だ。何をどうしようが、俺の勝手だ。
「おい、龍麻。酒」
そうして天童は既に用意されていた豪勢な食事と酒を前に胡坐をかくと、龍麻に隣へ来て酒の酌をするよう命じた。
すると龍麻は素直に傍に寄ってきて、不器用な手つきで酒を注いだ。
「お前もやれ」
けれど天童がそう言うと、龍麻は困ったようになってふるふると首を横に振った。
「ぼ、僕は飲めないから…」
「ばあか。んなこと知るか。てめえ、俺の酒が飲めねえってのかよ」
「は、はい」
さすが良い子のひーちゃんバージョン。何でも天童の言うことを聞きまくりである。
恐る恐る酒を口にする龍麻を酒の肴に、天童もかなり良い気分になってきていた。死んでいる身で、もしくは夢の中で「酔っぱらう」などということなどあるのかと思わないでもなかったが、今、天童はまさにそんな気持ちだった。だから、その勢いでするすると言葉が出ていた。
「おい、龍麻…」
さて、天童が出した言葉とは?
A 「お前は俺のものになれ」
B 「もう一度勝負しろ」
|