あの窓を開けたら


  ―28―



  「あの言いつけ」はあの場限りのものというか、まさかこの先もずっと有効なのだとはさすがにツキトも想像していなかったのだが……慣れてしまった今となっては何とも思わない。だからそれを言って周りから驚かれたり呆れられたりする度に、ツキトはただ困ったように笑うしかなかった。
「全く、門限が20時なんてどこの中学生かイイとこのお坊ちゃんよと思っていたら。まさかあの大会社の息子さんとはね」
「その台詞、今日で何回目?」
「まだ5回は言ってないでしょ」
  サトミはフンと鼻を鳴らした後「いいなあ」と、これもまた本日何回目なのか分からない羨望の眼差しを向け、ため息をついた。
「私、知ってるよ。小林のお兄さんさあ、マスコミの露出度も高いし。やり手若社長って、この辺りじゃ有名じゃんよ。まあ、うちの地元からあんな凄い人はもう出ないだろうって言われてるし? 何より超カッコイイもんねえ、しかもまだ独身なんでしょ!? ねね、私とかどうよ? 私、小林の良いお姉さんになる自信あるなあ」
「彼氏はどうしたんだよ。建築科の」
「あんなの知らないわよ」
  サトミはむっと子どものように頬を膨らませ、再び机の上に出していた2枚のチケットをバンバンと叩いた。
「だからこれ! 小林を誘ってんじゃないよ! ねえ、こっちのあんなちっさい公会堂でセレストが単独ライブやるなんて、もう二度とないかもしんないのよ!? 行くしかないでしょ、ファンとしてはさ! なのになのに、あのバカ男ときたら、『お前は口を開けばアキラの話しかしねえ、ウザイ』っていきなりキレ出したんだよ? ありえないでしょ、彼女の好きなバンドの話くらい大人しく聞けってのよ。一緒にコンサートやライブ行くカップルなんてどこにでもいるじゃない!? 酷いっしょ!?」
「そ、そうだね…」
  まずい話を振ってしまったと思いながらツキトが引き気味になりつつ曖昧に応えると、サトミはますます不機嫌になっていき、「ケッ」と、およそ女子大生にあるまじき「はしたなさ」で豪快に足を組んで見せた。ヒールの高いブーツにミニスカート姿のサトミは、きっと今日の「お祭り」の為あろう、もう紅葉の季節だというのに上半身も露出の高い服を着ていた。本来なら健全な男子学生を前に少しは控えるべきなのだろうが、彼女はどうにもツキトをいっぱしの男性扱いしていない節が見られた。
  それもこれも、ツキトが突然誘われた今夜のライブを断る為に、已む無く暴露した「門限20時」が影響しているせいだと言えなくもないのだが。
「男ってホントめんどくさいよね」
  暫しの沈黙の後、サトミが再び会話の口火を切った。
「恋人が自分だけ見てくれなくちゃすぐむくれる。ヤキモチやきで独占欲が強くって。ったく、どっちがうざいんだか分かりゃしない」
「そんな事…」
「ないって言い切れる?」
「……言い切れないかも」
  一瞬の間の後ツキトが素直にそう返すと、サトミは探るような目を向けた後、「何かさ」と口を開いた。
「小林ちょっと変わったね。これ、結構前から思ってた事だけど。夏休み以降? それとも休みに入る直前、かな。何かあったの?」
「別に何もないよ。知ってるだろ、休み中だって殆どここに来てたし」
「そうだけど。うーん」
  サトミは腕を組んで首をかしげた後、何事か考えるような表情を見せてからふっと笑った。
「ま、変わったと言っても、どこがどうとはうまく言えないんだけどさ。何ていうかね…うん、ちょっと明るくなった?」
「そうかな」
「それも変わったしね」
  言ってサトミはツキトが脇に置いていたスケッチブックを指差し、わざとらしく悔しそうな表情を作った。
「今の作品、私、結構好きかも」
「本当に?」
「うん、あんたらしいよ。優しい感じがしてさ。ぽわってしてて」
「ありがとう」
  大学の後期が始まってから既に2ヶ月が経つ。今日は気持ちの良い秋晴れだ。
  昼になったばかりの大教室はまだ学生の数もまばらで開放感があった。広く開け放たれた窓からは爽やかな風が絶え間なく入り込んできていて、サトミはそちらに顔を向けながらどこか楽しげな様子で目を細めた。ツキトはそんな友人の横顔を見つめてから、さり気なく机の上に置かれた2枚のライブチケットに目を落とした。
  サトミが「いつか誘うから予習しておいて」と、自分のお気に入りである新進バンドのCDを貸してくれたのはつい先日の事だ。それを自室でデッサンしつつ何ともなしに聴いていたツキトが、1曲、2曲と耳に入れていくうちに手の動きを鈍くし、やがてハッと鉛筆を取り落とすまでに然程の時間は掛からなかった。昔、東京のオンボロアパートでさんざん聞かされていた歌声である。バイト疲れでまだ眠っていたいのに、朝方突然ギターをかきならして歌い出し、「ツキトの寝顔見てたら閃いたから」、「ツキトに聴いてもらいたかったから」と悪びれもせずに笑っていた男。
  あの刈谷という友人の顔を、ツキトはこの先も忘れる事はないと思う。
「ねえ、誉めてあげたんだからさあ。行こうよう」
  ついぼうっとしているツキトにサトミが再度ねだるように言った。
「何とか頼みこんでさ。今日だけ門限23時とかに出来ないのー?」
「ごめん」
「もうっ。小林がそんな薄情な奴だって知らなかったよー。このボンボンめっ!」
「ごめん」
  もう一度謝って、ツキトは困ったように笑いながら「彼氏誘いなよ」となるべく控え目に言ってみた。
「ええ…」
「もしかして言い過ぎたって後悔してるかもしれないよ。鼎の事、待ってるかも」
「……むう」
  納得しかねるような顔でサトミは再度頬を膨らませたが、ツキトがどうあっても自分とライブに行ってくれないという事は分かったらしい。「あーあ」とあからさまにため息をついて見せると、彼女は諦めたように首を振った。
「分かった。じゃあさ、今度は絶対行こう? こんな急にじゃなくて、ちゃんと誘うから。そしたら一緒に行ってくれる?」
「……うん」
「絶対だよ!? 本当にいいんだからさ! 生で聴いたらきっともっと最高だって分かるよ!」
「うん」
  サトミは何度も何度もセレストの素晴らしさを説き、彼氏がいる建築科の学問棟の前で別れる間際まで、ツキトに「いつか絶対一緒に行こうね」と繰り返した。ツキトはそれに笑って頷きながら、いつまでも後ろ髪引かれているような彼女の背中を早く行くようにと強引に押した。
「ふう…」
  そうしてようやく独りになって息を吐き出した時だ。
「今さら昔のしがらみなんか」
「わっ!」
  突然背後で声を掛けてきた男の声にツキトは思い切り驚きの声をあげ、飛び退った。こんな登場の仕方をする人間は一人しかおらず、声を上げた直後にはすぐにその声の正体が分かったのだが、なにしろ急過ぎた。
「上月さん…。もう、やめてくださいよ。突然現れて不意打ちで声かけるの」
「やだ。月人君の驚く顔見るの、僕の生き甲斐になりつつあるから」
  上月はしらっとそう返した後、いつもはしていないサングラスをしたままにやりと怪しげな笑みを浮かべた。ツキトがそれに訝しそうな視線を向けると、上月は「こっち」とツキトの肩を抱き、校舎と掲示板との僅かな隙間にツキトを無理矢理連れ込んだ。
「な、何ですか…?」
「君は完全に包囲されている」
「は?」
「それを教えてあげようと思って危険を顧みずここまで潜入してきたってわけだ。敵もなかなか手強くてね、僕が君に近づかないようにって、最近じゃつまんない仕事をほいほい会社を通じて頼んでくる。悪質だ」
「な、何の話なんです…」
  ふざけているのか冗談なんだか、サングラスのせいで上月の表情を読む事はできない。おまけに探偵業よろしく、声色も相手に自分の意を読ませないものだから、ツキトとしてはただ上月の言葉の意味をそのまま受け取るしかない。
  もっとも、「包囲」というと物騒だが、それに近い事が起きるのではないかという事は、何となく予想もついていたのだが。
「もしかして支倉さんが来てるんですか」
「あれっ。知ってたの」
  ツキトの言葉に上月はぴょこんと首を伸ばすと意外そうな声を出した。そうして表門のある方向を親指で指し示しながら、「大仰なビーエムで待ち構えてるよー。周囲の注目浴びまくり」とバカにするように言って笑った。
  つられてツキトも小さく笑った。
「たぶん、兄さんに言われて迎えに来てくれるんじゃないかなって思ってたんです。もう本当申し訳ないですよ。支倉さんだって色々忙しいのに」
「いやあ、あの人は喜んでやってるでしょ」
「え?」
  きょとんとして聞き返すツキトに、上月はにやにやと笑うだけでそれに対する答えをくれようとはしなかった。
  代わりに違う事を口にする。
「それで、どうするの? 脱走するって言うなら手伝うけど。あの人、最近僕が月人君と一緒にいるってだけで害虫でも見るような目で睨んでくるから腹立つんだよ。あの取り澄ました有能秘書さんの鼻を明かしてやろうよ、是非に」
「もう…。支倉さんは睨んだりしませんよ。それに俺、脱走とかする気ないし」
「ええー」
「ええって! 何を期待してるんですか」
「だってさ」
  もう必要ないと思ったのか、サングラスを取った上月は露になった顔に不満そうな色を全面に打ち出しながら唇を尖らせた。先刻の不貞腐れて見せたサトミと良い勝負だ。その表情はとても大人の男のものとは思えなかった。
「月人君、何だかんだでやっぱりブラコンなんだもんな。俺としてはもっと兄貴に逆らう気概が欲しいわけ。分かる?」
「無駄に逆らったって仕方ないでしょう」
  最近の上月はこればかりだ。ツキトは慣れたようにかわしながらやんわりと返した。
「それに最近、兄さんに逆らわなくちゃならない事なんか特にないし。そりゃ…門限20時はちょっと…どうかなって思うけど」
「でもまあ今回はそれのお陰で、行きたくもないライブに行かずに済んだ、と」
「……どこから聞いてたんですか?」
  先刻までしていた友人との話題をすかさず持ち出してきた上月に、ツキトはぴたりと動きを止めて抗議するような目を向けた。
  勿論、上月はそんなツキトの些細な睨みなど何ほどの事もないのだが。
「ボンボンがどうとか、アキラはカッコイイとか」
「………」
「タカヒロの詩は相変わらず切ないとか」
「上月さん…」
「知ってたよ」
  ツキトの質問を先取りしてから上月は笑った。その笑顔は何かを適当に取り繕うかのようなその場凌ぎのものにも見えたが、二人の間を流れる空気を暗いものにしないよう敢えて作ったものにも思えた。
「月人君が音楽に疎いのは知ってたから、バレないで済むかなーとも思ってたけど。敵もさるもの、わざと想い人のいる土地でライブなんてやるんだからね」
「敵って…」
  言い淀むツキトに、しかし上月は厳しい口調でぴしゃりと返した。
「敵じゃん。会いたくないでしょ、もう。ある意味、凄い執念で感心はするけどね」
「か……刈谷、俺の実家がここにあるって知って…?」
  まさかと言う思いを抱きつつも、ツキトはその考えを口にして眉をひそめた。彼が以前志井と自分が同棲していたマンションを探し出して頻繁に手紙を送っていた事は知っているし、その後も居を移した志井の居場所を割り出して連絡していた事も知っている。誰にも知らせなかったのにどうしてバレたのだろうと志井は大分憮然としていたけれど、上月のような職業の人間を雇えば、別段失踪したわけでもない人間を探し出すなど造作もく、何ら不思議な事ではないのかもしれない。……だからと言って、己の預かり知らぬ所で色々と探られていたと知るのは、決して気持ちの良い事ではないが。
(会おうとしない俺が悪いのかもしれないけど)
「知っていても、自分から会いに行くのを耐えてるところだけは評価してやってもいいけど」
  ツキトの陰鬱な想いを遮断するように、上月はふんと鼻を鳴らして偉そうに腕を組んだ。やはり上月はツキトに対して兄のような気持ちでいるらしい。余計な虫をつけたくないとばかりに、思い切り気分を害した様子で続ける。
「でも、許しちゃ駄目だからね。会う必要なし。何なら僕が言ってきてあげるよ、『お前、気持ち悪いストーカーみたいな真似はやめろ!』ってね」
「こ、上月さん、怒ってます…?」
「怒ってるね」
  誰に向けるでもなくふっと嘲るように笑って見せてから、上月はちらと背後を気にしたように見やった。支倉がそろそろ痺れを切らせてここまで来る頃だと思ったのだろう。
  それでも彼は厳しい口調を緩めなかった。
「有名になって、今は真面目に音楽してますって、だから何? 俺はね、ああいう男は嫌いなんだ。大体、歌詞もいやらしいよな。聴いてるだけで気分悪くなった」
「………」
「月人君は違うの?」
「お、俺は…」
  正直、刈谷には会いたくない。それはツキトの偽らざる本心である。どうしても蘇ってしまうから。彼との思い出はあまりに辛くて、過去のあの事件とももろに重なってしまって。彼の事を考えただけでも胸がぎゅっと痛くなるし、右手もじんと痺れたようになって指先が凍る。だからツキトは、もしサトミが泣いて頼んだとしても、兄に課された門限というものがなかったとしても、やはりライブには行かないと答えただろう。
  けれど。
「あの…も、もし、で…。いいんですけど」
「何?」
「上月さんって神出鬼没でしょ。だから有名人の所に会いに行く事も出来そうだから…。現にさっきも、何なら言ってきてあげるって言ってたし…」
「何が言いたいの」
  ツキトが今から言おうとしている事を読んで上月は既に不機嫌だった。それでもツキトはごくりと唾を飲み込んだ後、思い切って告げた。
「…刈谷に会ったら言って下さい。悲しい歌ばかりじゃなくて…楽しい歌も書いてって」
「………」
「俺……恨んでなんかいないから」
  それだけは本心だったからはっきりと言った。まだ会いたくはない、それは無理だ。けれど――。いつまでも彼に引きずってもらいたくはない。自分とて振り切りたい。前を向いて歩いていたい。そう思っている事だけは間違いないから。
「俺、幸せだからって」
  ツキトが清々とした声でそう言うと、上月はふっと息を吐いて「仕方がないな」という風に苦く笑った。
「調子に乗っちゃうよ、そんな事教えてあげたらさ」
  嫌だなあと上月は本気で憂鬱そうに首を振った。けれどもツキトがその言付けの内容を撤回する気がなさそうなのと、最後の「幸せだから」という台詞で彼も折れるより他なかったようだ。如何にも無念そうに俯いた彼だったが、「分かった分かった」と疲れたように言った後、ようやくいつもの笑顔を見せた。
「実はさ、今日の僕の仕事はそれなの。依頼人は、志井克己」
「え…っ」
「今日のライブの事、もし月人君が知らなかったらそのままスルー推奨。もし知っていたら…聞いて欲しいって。あの男に何か言う事あるなら伝言してやってくれってさ。たぶん、あの人もいい加減うざかったんだろうね、ストーカー男にいつまでもつきまとわれて」
「か、刈谷…まだ志井さんにも手紙出してたんですか?」
「出してるみたいよ? 俺みたいな職業の奴、いっぱいいるからねえ、世の中には」
  ツキトが先ほど考えていた事をもろに口にし、上月は「嫌な商売だよね」とふざけたようにそう付け足した。
  そうしてこれみよがしに、サトミが持っていたのと同じピンク色のライブチケットをひけらかすと、本当に行くのが嫌なのだろう、彼はハアと深く重いため息をついた。
「幸せというならあの人の事だよな。こんな敵に塩送る余裕まで持てるようになったんだから」
「し、志井さん、もう帰ってきてるんですか!?」
  ツキトの焦ったような声に上月は「いや」とすぐにかぶりを振った。
「まだでしょ。これ頼まれたの結構前、国際電話でだし。忙しい割に月人君の事になると恐ろしい程マメだからね。ホント、顎で使われちゃう俺って哀れだよ」
「す、すみません…」
「いいよいいよ。可愛い月人君の為だ」
  上月は最後の台詞だけいやに強調すると、いきなり両手を振り上げて大袈裟にツキトの身体を抱きしめた。ツキトがそれに面食らって目を白黒させると、上月はすぐに離れて「ははは」と軽快に笑った。
「これくらいはご褒美貰わないと。あの人の報酬はきっとまたカップだの湯のみだの、自分の趣味全開なブツだけだからね」
「……それ、最高の報酬だと思うんだけどなあ」
「そんな風に思うのは月人君だけだよ!」
  ぶうとまた膨れて見せて、上月は再びサングラスをかけた。そうしてまた怪しげにきょろきょろと辺りを窺うと、「ここで別れよう」とわざとらしく危機感の混じった声を出した。
「もうすぐここに君の自称ボディガードがくるだろうからね」





  支倉がツキトの元へやって来たのは上月が去った数分後の事だ。「社長命令で」という言葉をつけるのを彼は忘れなかったが、社用のものではなく自分の車で迎えに来ているあたり、支倉という人間も最近では大分くだけてきているようだ。
  ただ、車内でツキトが陽子の話を持ち出すと、憐れな有能秘書は途端渋い顔を見せた。
「陽子姉さん、最近誰とも付き合ってないんだって? 田中さんが、今度こそ本命を支倉さん一人に絞ったんじゃないかってみんなが話してたって。あ、みんなっていうのは、田中さんの部署以外の人もって事だけど」
  ツキトがどことなく嬉しそうにそう話すと、支倉は「月人様」と抗議するような声をあげつつ、実際に文句を言おうかどうしようか逡巡していた。運転に支障が出てはいけないのでツキトもそれ以上からかうのはやめたが、心の中で半分くらいは…いや、もしかすると半分以上はやっぱりこの噂が本当になったら良いのになと思っていた。以前、噂になった女性秘書との結婚話も完全にたち消えになってはいないようだが、田中によると、「ボスは危険だと分かっているのに、結局はその危険な道を選んでしまうタイプなんですよ」との事だった。ツキトの中で支倉はいつでも堂々とした頼りになる人だったが、苦労性というか苦労を進んで買っているという点には確かに頷けるところがあると思っていた。だからというか、全く勝手な話だがそれで彼が陽子の結婚相手となり、自分の家族になってくれたら嬉しいなあとはどうしても思ってしまうツキトであった。
  支倉本人としては、そんなツキトの願いは甚だ不本意であろうが。
「あー、あのお店、改装終わったんだ。いいな」
  暫くして2人の走る車がある店の前を通過したところで、窓にはりついていたツキトが嬉しそうな声をあげた。
「寄りますか?」
  既に車はツキトが見ていたその店を通り過ぎてしまったが、支倉はさっと視線を寄越して律儀にそう訊いてきた。そこはツキトが典子に教えてもらって通うようになった洋菓子店で、特製プリンがとても美味しい事で有名だった。スタンダードなものも勿論だが、カボチャやチョコレート、ミルクプリンなど種類も豊富で、改装工事で暫く休みに入ると知った時は残念に思っていた。食に関して殆ど興味を示さないツキトだが、そこの店だけは別格と言える。
「いいよ、また今度で」
  けれどツキトは支倉のありがたい申し出をすぐにそう言って断ると、窺うような目をして笑った。
「折角支倉さんがわざわざ迎えに来てくれたんだし。兄さんには二部の夜会には出なくていいって言われてるから、尚更早く行かなくちゃ」
「これくらいの寄り道は大丈夫ですよ」
「ううん。でも、いいんだ。今日はおとなしくしてる」
「今日は、ですか?」
  言葉尻を捉えて支倉が問い掛けると、ツキトも別段悪びれもせずに「うん」と頷いた。
「そう、今日は。だって約束だし。…それに、本当はちょっと嬉しかったかもしれない。本心としては出たくないんだよ? でも兄さんに今日のパーティに出ろって言われた事それ自体は嫌じゃなくて、少し嬉しかった。矛盾してるんだけど…これ、意味分かる?」
「分かります」
「本当?」
  即答する支倉にツキトは目を瞬かせ、「ありがとう」と礼を言った。支倉はそんなツキトに僅か頬を染めて途惑ったような顔をしていたが、ツキトはそれに気づかなかった。
「あのさ、でも何回も言うようだけど、俺はただ少しの間突っ立って、兄さんが挨拶しろって言った人に頭下げるだけでいいんだよね? 特に何も言う必要はないんだよね?」
「ええ、それは大丈夫です。会長が懇意にされているT社とG社の社長に会って頂ければ。どうしても月人様にお会いしたいという事なので。挨拶が済みましたら後はご自由になさって下さい。もし退出されたいようでしたら、私に声を掛けて下さればまたお屋敷までお送り致しますので」
「挨拶が済んだら、そりゃとっとと帰りたいよ! でもさあ…どうして俺なんかに会いたいのかな。大体、うちって父さんたちの子どもは太樹兄さんと陽子姉さんの2人だけって思われてる事多いはずなのに。何で俺の事バレてるの?」
「バレるも何も。月人様はれっきとした会長のご子息ですから」
  支倉はきっぱりとそう答え、それきりそれに関する事は何も言おうとしなかった。
  やがて車は目的地であるパーティ会場の都内ホテルに到着した。ツキトはそのピカピカに輝く高層ホテルを見上げながら、支倉が持ってきてくれたであろう礼服がきちんと様になるだろうかと思い苦笑した。何せこういった場に顔を出すのは本当に久しぶりだ。高校時代にも兄に言われ何度か無理やり会社関係のパーティに出席させられた事はあるが、記憶にあるのはいつでも煌びやかに過ぎる会場の装飾と、だだっ広い空間で意味のない笑声を立てる着飾った見知らぬ大人たちの群れだけだった。それに記憶が曖昧なだけならまだしも、幼少時などはこれが本当に恐ろしくて、本来縋って良いはずの母からも邪険にされ、ツキトは会場でしょっちゅう迷子になっていた。兄の太樹が必ず見つけ出して手を繋いでくれたから何とかなったものの、そんな思い出のせいもあって大勢がいる場所が苦手という意識は未だ拭い去る事は出来ない。
  それでも今日は何とかうまくやりたい。「小林家の次男坊」らしい態度で臨み、兄を失望させないようにしないと。
  ただでさえ未だ「志井の帰国日」も教えてもらっていないというのに……。
  志井本人からも忙しいのか兄に気を遣っているのか電話の1本も掛かってこないし。
「はあ」
「月人様、どうされました? こちらへどうぞ」
「あ、ああ、うん。分かった」
  ホテルの従業員に車を預けた支倉がぼうっとしていたツキトをホテルの中へと誘導する。
  これから着替えを済ませて、いざ戦場へ赴くのだ。とりあえず今はこれだけに集中しようと、ツキトは大きく息を吸い込んで支倉の後へ続いた。





  会場ではなるべく一緒にいると約束してくれた支倉も、「既に出来上がっている」かのような陽子に見つかると、ほぼ強引に会場奥へと連れ込まれて姿が見えなくなってしまった。
「姉さん…あれは本気なのかもな」
  こういう場所ではただでさえイキイキしている陽子だが、支倉を見つけた時の目の輝きはより激しいものがあった。弟であるツキトの事など、「あら、いたの」くらいのものだ。最近の陽子はとことんツキトには冷めていて、志井との仲が修復してからは余計に、むしろ酷く素っ気無い態度で「つまんない」と言ってロクに話し掛けてこなかった。本来ならば「他人のモノを奪う事こそ楽しい」「人の恋路は何としても邪魔しなきゃ」なはずの彼女である。何故あれほど執着していたツキトに対してそんな態度なのかは今もって謎なのだが、別段構われたいわけでもないので、支倉には申し訳ないが、ツキトとしては陽子の変化は素直にありがたいと思っている。……またいつ風向きが変わるかは分からないが。
「ふう…」
  それはともかくとして、やはりこういう場所は苦手だ。
  今回のパーティは小林建設が手がけたこのホテルの40周年記念祝賀会というものらしいのだが、提携先企業の取締役や重役たちは勿論、経済界の重鎮とやらもちらほらいるとかで、警備もものものしいし人口密度も高い。適度なテーブルスペースに談笑用の椅子もずらりと並んでいるし、庭園へと続くテラスも広くて解放感溢れる雰囲気なのに、今のツキトには何でも窮屈に見えて仕方がなかった。またそんな息苦しさに加えて、無理矢理締めたネクタイ姿が七五三のように見えないかという事も気になり、ツキトは飲み物も取らず端っこに立ち尽くしたまま、何度もタイに手を掛けてはため息をついていた。
「月人」
  そんな状態がどれくらい続いた事だろう。
「兄さん…」
  実際はほんの数分だ。支倉が素早く知らせたか、それとも自身で気がついたのか。太樹は会場の端に陣取っていたツキトに向かってすぐに颯爽とした足取りで近づくと、開口一番「遅い」と言った。それはいつもの憮然とした表情だったのだが、ツキトとしてはようやっと会えたその姿に安心して、思わず笑みが零れてしまった。
  勿論、太樹はそれに対し酷く胡散臭そうな顔を見せたのだが。
「何をにやついているんだ、気持ち悪い。俺は怒っているんだぞ」
「ごめん。でも、兄さんが来てくれて助かった。俺、やっぱりこういう所にずっといると死んじゃうよ」
「大袈裟な」
  ツキトの台詞に太樹は珍しくも微か苦い笑いを浮かべたが、実際本当に死にそうな弟の言葉が可笑しかったのだろう。それじゃあ手早く済ませてやるかという風にツキトの肩を抱くと、目的を果たす為、再び会場の中央へと歩き始めた。
  ツキトが驚いたのは、太樹が会わせると言った会長の知り合い―つまり自分たちの父親の知り合い―…とやらが、皆一様に絵画に対し造詣が深いという事だった。しかもツキトは終始「ええ」とか「はい」しか言わなかったが、横で人当たり良く話す太樹の様子から察するに、彼らはツキトが美術大学に通ってどんな絵を描いているかも知っているようなのだ。そうしてそのお偉方は付き合い上の世辞には違いないだろうが、自分はこれこれこういった画風が好みで、休日にはこういったものを描いたりもする。ツキト君の絵も是非見てみたい、もし良かったら今度一枚描いて欲しいというような話までしてきたのだった。太樹は決してツキトの絵を誉めなかったし、実際彼らの前でも「道楽息子で困ります」などと父親のような事を言って彼らの笑いを買っていたが、それでもずっと背中に触れられている太樹の手のひらの温もりが嬉しくて、ツキトはついついそんな兄の横顔ばかりじっと見上げ続けてしまった。
  やがて一通りの面通しが終わり、ツキトが再び元の端っこへ戻ると、やや遅れて太樹が再び戻ってきた。
「御苦労」
  偉そうに言いながら、太樹はツキトに向かってある物をさっと渡してきた。それはどこのテーブルから持ってきたのであろう、苦そうなカラメルの掛かったプリンだった。
「あ、ありがとう…。社長にプリン運んでもらうなんて贅沢だ」
  ツキトが驚きで目を見開きながらも思わずぷっと噴き出すと、太樹はみるみる不機嫌になって眉をひそめた。
「どんなイヤミだ」
  それでもまだツキトと話す気はあるらしい。太樹は傍の椅子にどっかと腰を下ろすと、ちらとだけ時計を見やった。
「もう帰っていいぞ」
「うん。でも支倉さんが見当たらないんだ。ここから電車で帰るにはどうしたらいいの? 駅、近いよね?」
「よせ。車なら別の奴に出させる」
  太樹は当然のように電車帰還を禁止して、それからほぼ初めてと言って良いほどにまじまじとツキトの格好を見やった。ツキトはそれが恥ずかしくて「何」とそっぽを向いたのだが、兄の視線は逸らされる事がなかった。いつも格好良いスーツをびしっと決めている兄と自分とではこんなところからして差がついてしまうと悔しくもあるが、事実だから仕方がない。また何かバカにされるのだろうかとツキトはじっとして次の言葉を待っていたが、意外にも太樹は「ふうん」などと言って害のない笑いを浮かべた。
  そして言った。
「お前もそういうのが似合う年になったのか」
「え…?」
  ツキトがぎょっとして視線を向けると、しかし今度は太樹がふいと知らぬフリをした。
  それから2人何を喋るでもなく何となくそこにいたのだが、太樹もそうそう休んでいるわけにもいかないのだろう。「お前はもう帰れ」ともう一度言った後、太樹はすっくと立ち上がり、去り際素っ気無く言った。
「今日はまあまあの態度だったからな。あいつもそれなりの働きをしたようだし。……電話していいぞ」
「えっ…」
  その言葉にツキトが弾かれたように顔を上げると兄はちらと振り返り、フンと嘲笑った。
「あの男、俺に一体何回電話してきたと思う? しかもこの間は訳の分からないカップなんぞ贈ってきやがって。俺こそ頭がおかしくなりそうだったぞ。もう少し弁えろと言っておけ」
「に、兄さん本当に? 電話していいって事は、志井さん、もう帰ってきてるの?」
  けれどツキトの焦ったような問いに太樹はもう答えなかった。その代わり、「もし明日行くとしても門限は変わらないからな」と念だけ押して、兄は再び喧騒の中へと去って行った。ツキトはそんな兄の背中が見えなくなるまでじっとした視線を送っていたが、やがてハッとすると殆ど小走りでざわめくパーティ会場を後にした。

  志井さんに電話出来る!

「何処がいいかな…!」
  フロント付近は勿論、トイレですら今のこのホテル内にはどこもかしこも人がいそうで、ツキトは裏手にある非常口から表へ出て、別段悪い事をしているわけでもないのにきょろきょろと辺りを見回した。それでも地上は運送業者やホテル関係者のトラックやバンの往来が目立つので、ツキトは階段を少しだけ上がった途中の段に座りこんでようやく懐の携帯電話を取り出した。すうはあと息を吐いた後、一つ一つ確かめるようにボタンを押す。いつだって志井に向かって電話を掛ける時はこうだった。いつも緊張して、いつも出てくれるかなと心配して。
  それでも今日はまだ兄公認だ。いつもよりは自然期待も大きくなる。
「………」
  ボタンを押し終わって電話が繋がる間、こくりと喉を鳴らしてツキトは志井の声を待った。話をするのは半月ぶりくらいだ。まず何を言おう、志井が元気かどうか確かめる? それともいきなりいつ会いに来られるかと訊いてしまおうか。
『ツキト!?』
「わっ…」
  けれどその考えがまとまる前に、耳元に殆ど怒鳴り声のような大きな声が響き渡った。
「し、志井さん…?」
  そのあまりの切羽詰まった声にツキトが面食らうと、電話の向こうの人物―志井―は、ますます逸ったような調子で早口にまくしたてた。
『ツキトだろ!? これツキトの番号だもんな、ツキトだよな!?』
「う、うん。志井さん…?」
『ツキト、元気か!? 風邪引いてないか!? ああ、声聞くの久しぶりだ、全くあのバカ兄貴のせいで…!』
  志井のぶつぶつという悪口は時々電波の関係で聞き取れなかったが、どうやらまだ日本に帰ってきてないらしいとは何となく分かった。ツキトは必死に携帯を耳に当てながら、努めてはっきりとした口調で返事をした。
「か、風邪なんて引いてないよ元気だよ。志井さんは? そっちは寒いの?」
『ああ、ちょっとな。でも俺は平気だ、精神は平気じゃないが…。あの野郎、何度電話してもツキトと話させてくれないしよ。次のプロジェクトが済んだら、今度の会議が終わったらって、ちっとも解放しやがらない! 大体、俺はここの正社員でもないのに、何であいつにこんなこき使われなくちゃならないんだ!? お前んとこのシステム部には電話会議一つ取り仕切れる奴がいないのかと何度文句言った事か…って、あ! 文句言ったのがまずかったのか!? いつもはもうちょっと従順にしてるんだが、俺もいい加減キレてたから最後はまともな判断が…』
「し、志井さん落ち着いて…っ」
  取り乱している志井を何とか必死になだめすかせ、ツキトはそれでもこみあげる笑いを止められずに遂に噴き出してしまった。志井はそれに途端ぴたりと声を止めて「何がおかしいんだよ…」とふてくされたような小さな声で呟いたものの、さすがに自分が子どもじみた愚痴を言っていると気づいたらしい。ようやくしんとなって、いつもの冷静な声色が戻ってきた。
『……悪い。最初にやるって了承したの俺なのにな』
  しゅんとなる志井にツキトは相手に見えないながら一生懸命首を横に振った。どんな態度の志井でも何を言う志井でも、やっぱり声が聞ける事それ自体が嬉しい。何だかんだと仕事を頑張っているような志井の姿も、ツキトはより一層凄く好きだと思う。
  どこからどういう流れでこんな事態となったのか、志井が太樹の下、小林グループのシステム部に派遣社員扱いで配属されたのは数ヶ月前の事だ。太樹は歴代のトップと比べてもグループの海外進出には積極的な方だったが、各国に置いている支社やその他関連企業とのパイプ役を果たせる人材や、ネットワーク関連の技術者が徹底的に不足している事は普段より頭の痛い事項であった。新人を育てると言っても支倉のような者が出るのは非常に稀な例で、大抵は経験やスキルのある人物を外部から雇い入れるのが常だった。
  つまり、「ツキトとの仲を邪魔する為」であるかどうか、そこらへんの真意は定かでないとしても、太樹が英語やその他の語学に精通している元プログラマーの志井に目をつけたのは、当然といえば当然の流れであったわけだ……が。
  ツキトとしてはその兄の誘いに頷いた志井の方こそが意外であり、ほんの少し心配でもあって。

  《あのですね、月人様。大丈夫ですよ。私にはあの方のお気持ちがよく分かります!》

  けれどそんな不安をちらと口にしたツキトに、今や2人の良き理解者となっている典子はにこにことしてかぶりを振った。
「志井さん」
  そんな彼女の台詞を思い出しながら、ツキトはまた自然に零れる笑みと共になるべく明るい口調で言った。
「あのね、今日電話してもいいって言ったの、兄さんなんだ。俺、勝手に掛けてるわけじゃなくて。しかも、明日は志井さんの家に行ってもいいって!」
『は……?』
  すると志井は一瞬ぽかんとしたような声を出し後、「それってつまり」と呟き、再び大きな声を張り上げた。
『……って事は、俺は今日、少なくとも今日の夕方前には帰れるって事か!? 日本との時差は13時間くらいだから、明日会う為には今日中に帰らなくちゃな!』
  志井の必死な言にツキトも必死に頷いた。
「うん、きっと帰れるんだと思う。何も連絡ないの?」
『全くない! あのくそ兄貴、今から電話してみる! ツキトは、今日家にいるか?』
「うん、今は外だけど…。ずっといる」
『じゃあ帰りの時間が分かったらまた電話するな! あーっと、なるべくお前が寝る前にはまた掛けるから!』
「あ、ところでごめん。俺、時差の事なんか全く考えてなかった。今ってそっちは明け方なんじゃ…」
  早口で今にも電話を切ってしまいそうな志井にツキトも慌ててそう告げる。
  すると志井は電話口でにやりと笑ったようになり、不敵な調子で返した。
『安心しろツキト。俺はこっちに来てから殆ど眠らせてもらってないから』
  ここは怠け者の国だと聞いていたが、俺の周りだけは日本らしいぞと志井はおどけたように言い、「大体、ツキトからの電話ならいつでも歓迎だ」としっかりアピールする事は忘れなかった。……勿論、そんなさらりとした台詞だけでもツキトの幸せ数値は上昇する。たまらなく胸が躍って、早く、一刻も早く志井に会いたくて堪らなくなる。
『ツキト。早く会いたい』
  するとツキトの考えと折り重なるようにして志井が先にそう言った。
『もうすぐ会えるな。会ったら…いっぱい話そうな』
「うん」
『それと――』
「……? 志井さん?」
  けれど再び電波の関係か、電話はそこで切れてしまった。あーあと思いながら、それでもツキトは未だじんじんと温かくなる思いで、切れてしまった携帯を胸にかき抱いた。
  離れていてもこんな風に温かくて嬉しい気持ち。
  今まで志井とはいつも離れてばかりで、その度気持ちが暗くなって絶望して。
  けれど今は違う。別々の所にいてもこんな風に繋がっていられるのだ。
「それに…もうすぐ会える」
  ツキトはしっかとその言葉を口にしてから立ち上がった。早く家に帰ろう。志井が今度は家に電話をくれるはずだし、その時はまず一番に自分が取りたいと思ったから。
「典子さんが出ると、また典子さんばっかり話しちゃうからなあ」
  くすりと笑ってツキトはそう独りごちた。と同時に、先ほど思い出した彼女の「大丈夫ですよ」の台詞が脳裏に蘇る。

  《大丈夫ですよ、月人様。志井様が太樹様のお仕事をお手伝いするのはですねえ、喩えるならば、お父様のご機嫌を取る為に敢えて婿養子の立場に甘んじているわけです。作戦です作戦!!》

「まったく…」
  また笑いがこみ上げてきてツキトはそれを振り切るように首を振った。
  ふと階下を見るとまた新たに荷を運ぶトラックが裏手に入ってくるのが見えた。追加のシャンパンか、或いはあのテーブルを彩るディナーの食材か。気のせいかその匂いがここまでしてくるようで、ツキトはにこりと微笑んだ。そうして、兄や姉が飲み過ぎないといいがと思いながら、ツキトは踵を返した。
  夕飯までには家に帰り着ける。その後たっぷり残る夜の時間で、志井の部屋へ持って行くお土産を考えようと思った。




27へ戻るエピローグへ…
(※「戻る」リンクはツキトシリーズのページへ飛びます。)