(8) 元々友之は父親にも母親にも満足に甘える事ができずに育った。 『 友ちゃんは本当に甘えん坊だなあ 』 そう言っていつもからかうように笑っていたのは姉の夕実だった。けれど実際は、父とは幼い頃から何となくぎくしゃくしていたし、母の涼子はといえば夕実の世話にかかりきりになっているところがあったから、友之が末っ子の特権を生かして母に擦り寄るなどという機会は殆どなかった。 友之は自分を縛る姉の夕実といつも一緒で、彼女だけが自分の全てだった。それなのにその姉は友之に「甘えられる」事をいつでも良しとしなかった。 友之はいつもどこかで孤独だった。 『 俺の所に来い』 だから1人の暗い部屋でうずくまっていた時、そう言って迎えに来てくれた光一郎が友之にはただただ嬉しかった。自分たち家族から一歩距離を置いていた兄がこんな自分を気にかけてくれていた。思いもかけない事だった。だからだろうか、その事に当初は何か得体の知れない怯えのようなものもあった。本当に良いのだろうか、光一郎の真っ直ぐな義務感に寄りかかって甘えてしまっても良いのだろうか。そんな不安から、あの頃は心の中に確かにあった自分の喜びを光一郎に伝える事ができなかった。信じたい、縋りたい。それでも、いつでも迷っていた。 けれど「今」は違う。光一郎の存在は、自分を認めて傍に置いてくれる兄の存在は、友之にはかけがえのないもので、信じられるものだと言い切れた。 友之は光一郎の事が好きだった。 「 トモ、朝だぞ」 だから昨晩、裕子を送らずに自分の背中を撫でに来てくれた光一郎が嬉しかった。 「 ほら、急がないと遅刻するぞ」 「 ………」 「 トモ」 だから。 「 トモ、起きろって」 何度か自分を呼ぶ光一郎の声を友之はベッドの中でとても心地よく感じていた。優しくて穏やかだ。反応を返そうと、未だはっきりとしない状態ながらも何とか目を開いた。ベッドサイドに光一郎が立っているのが見えた。 「 朝」 光一郎が言った。 「 朝……?」 友之が何となく聞こえてきた単語をぽつりと繰り返すと、光一郎は優しく笑って頷いた。そうしてくるりと背中を向けると、「早く来いよ」と言って隣の部屋へと戻って行く。 「 ………」 その遠ざかる光一郎の後ろ姿を見て、友之はようやく自分の意識が徐々にはっきりしてくるのが分かった。行ってしまうその姿が寂しいから、目が覚めた。 「 先に顔洗って来いよ」 のそのそと立ち上がって自分も居間へ行くと、光一郎が相変わらずの手際の良さでテーブルに朝食の用意をしてくれていた。そうしてぼんやりと立ち尽くしてその様子を見ている友之に再度そう声を掛けてきた。 どんなに忙しくとも、自分が朝早く出掛ける時も、光一郎は必ず友之の朝食の支度をしてくれた。夕飯に関しては、この頃は裕子が作りに来てくれる場合があるというのと、さすがに友之にも何かやらせないとまずいと考えるようになったせいか、何も用意のない日があった。 それでも、1日の始まりの朝だけは。 「 学校行く準備は出来てるか?」 「 うん……」 友之は頷きながら、テーブルに並べられた朝食を眺めた。トースト、スクランブルエッグにサラダ。白いティーカップからは紅茶の美味しそうな香りが漂ってきている。いつものありふれたメニューだけれど、友之にはそれが何だかいつも以上のものに見えた。光一郎が普段よりも「兄」らしくそこにいるせいかもしれなかった。 忙しなくあれをやれ、これをやれと言うところとか。 「 な、トモ…」 何となく、雰囲気が。以前の自分を迎えに来てくれた頃に似ていると思った。 「 トモ。お前、俺に何か言いたい事ないのか」 「 え…?」 そう思っていた時、光一郎が友之にそう言った。友之の座る右斜め越し、そう言ってこちらを見つめる光一郎の視線は、何だかひどく真っ直ぐなものだった。 「 何かって…?」 思わず居心地の悪い思いをして友之は無意識にそんな光一郎から目を逸らした。昨夜の事だろうか。裕子に悪い事を言ってしまった、そしてその事を光一郎に何も話さずただ蒲団をかぶって逃げてしまった。その事を光一郎は許さずにこうして訊いてきているのだろうか。 「 進路調査があったんだって?」 けれど光一郎が発した言葉は友之が思ってもみなかった事だった。驚いて弾かれたように顔を上げると、光一郎は平然とした様子でそんな友之を見つめ返してきた。 「 沢海君から聞いた」 「 何で……?」 「 昨夜お前が寝た後に電話が来たんだ。何か用があったみたいだけどな、お前はもう寝ていたし…で、ついでに学校で何かあったのかと訊いてみた」 「 ………」 黙り込む友之を覗きこむようにして光一郎は続けた。 「 お前、それ早く提出しないといけないんだろう? もう書いたのか?」 「 ううん…」 「 どうするつもりだ? 先の事、すぐに考えろとは言わないけど、進学するつもりなら―」 「 分からない」 そんな話は聞きたくなくて突っ返すように言うと、逆に光一郎の口調は一気に厳しいものに変わった。 「 分からないじゃないだろう。お前、それ考えて言った台詞か?」 「 ………」 「 ……分からなくてもいいけど、その場逃れで適当に言うのだけはよせ」 ズキンと胸が痛んだ。その痛みはズキンズキンとその勢いを増していき、昨夜起きた事と一緒くたになって友之の身体と心を蝕んだ。 「 トモ? 聞いているのか?」 「 ………うん」 それでも「兄」の詰問は緩められなかった。ゆっくりとした口調ではあるけれど、やりたいと思える事を色々と探してみろという事、分からなければいつでも自分に相談してくれば良いという事、ただし全部をこちらに決めさせようとはするなという事など。光一郎は説き伏せるようにして友之に自分の思いを話して聞かせた。 「 ……考えてみる」 友之の方はといえば、俯きながらやっとそれだけを言った。進路の話が辛かったから言葉がうまく出なかったというのも確かにある。けれどこの時は、光一郎の声をただ聞いていたいという思いもあった。 だから友之は黙っていた。 その日、光一郎は1日家にいると言った。 「 ……忘れ物ないか?」 進路希望の紙を出す時は俺にも見せろよ? それを締めの言葉とした後、光一郎は相変わらずノロノロとした動作で制服に着替え、学校鞄を持った友之に疲弊した様子でそう言った。いくら打っても響かない弟にさすがに朝から疲れたのか、それとも別の事でイライラしていたのか、最後は少し投げやりな感じでもあった。 それでも光一郎は尚友之を心配する言葉を投げた。 「 気をつけてな」 「 ………」 友之はその声に反射的に頷きはしたが、光一郎が大学の講義もなく、アルバイトにも行かないという事実には心の中で動揺していた。1日中光一郎がこの部屋にいるという事などどれくらいぶりだろう。たまにレポートを書かなければならないからと、バイトを休んで家に篭もる事はあったが、それでもずっと家にいるというのは珍しかった。 一緒にいたいと思った。 「 ……どうした、トモ?」 玄関に通じる居間の入口付近に立ち尽くしたまま動かない友之に光一郎が不審の声を上げた。友之はそんな光一郎をじっと見やった後、何か言おうとして口を開き、けれど閉じた。 「 トモ? 遅れるぞ?」 「 ………っ」 どうだっていい。 そう思ったのにやはり声は出なかった。ここ半年ほど、極力思った事は口にしようと努めてきた。そうしようと約束していた。光一郎とも。 裕子とも。 「 あ……」 「 え?」 ふと思い立ったように声をあげた友之に光一郎はまた怪訝な顔をして聞き返した。それでも友之はそんな光一郎を一瞬焦ったように見てから、また視線をずらした。 裕子は今日もこの部屋に来るのだろうか。 「 ………!」 光一郎がずっといる、この部屋に、今日も。 「 あ…あ……」 「 何だ? トモ、どうした?」 「 ……たい」 「 え?」 「 …………休みたい」 本当は一緒にいたいと言いたかったのだ。 「 休みたい…?」 「 今日、学校休みたい…っ」 今度ははっきりと言った。顔を上げて、はっきりと。光一郎は今まさに出掛けようとしていた友之が突然そんな事を言い出したので、さすがに面食らったような顔をして最初はぽかんとしていた。けれどすぐに立ち直ったようになると、途端に眉をひそめて見せた。 「 何言ってるんだ?」 「 休みたい」 「 ………何で」 「 何でも」 「 ………」 またすぐに返すと光一郎はますます表情を翳らせた。それでもすっと友之の傍に近づくと、友之の心意を掴むような視線でじっと見下ろしてきた。 そうしてその1拍後、光一郎はいつもより多少荒っぽい仕草で友之の髪の毛をくしゃりとかきまぜた。 「 何言ってんだ。お前、突然何言い出すんだ?」 「 休みたい」 頭を撫でてくれた。それが嬉しくて友之は必死になってもう一度言った。光一郎の手の感触が自分の元にあるから。降りてきたから、きっと許してもらえると思った。だから必死にはっきりと言った。 「 休みたい」 「 ……駄目だ」 けれど無情にも光一郎から出された言葉は、友之の期待を見事に裏切った。 「 何で…っ」 思わず口走ると、光一郎はますます表情を曇らせた。 「 駄目に決まっているだろう。何我がまま言ってるんだ」 「 休みたい…っ」 「 理由もなく何でいきなりそんな事言い出す…」 「 コウといたい…!」 思いもかけず口から大声が出ると、光一郎はそんな友之の声に完全に意表をつかれたようになって微かに肩を揺らした。 「 トモ…?」 「 ここにいたい…」 それは心からの言葉だった。うまくは言えない、想いもうまくは伝えられない。けれど、自分はここにいたいのだと、いなければいけないのだと友之は思った。 「 だから……」 「 ……駄目だ」 それでも、光一郎は。 「 え……」 「 俺はな、友之。そういうのは好きじゃない」 「 ………」 「 そういう甘えは好きじゃない。……行って来い」 「 コ………」 きっぱりと言った後、光一郎はくるりと踵を返して朝食の食器を片付ける為に台所へ行ってしまった。友之はそんな兄の後ろ姿をただ茫然と眺めた。 ごめんなさい。 そんな台詞も浮かんだが、口の端にはのぼらなかった。泣き出したい気持ちでいっぱいになった。だからそんな顔を見られないようにする為、友之はだっと駆け出して家を出た。 友之が不登校を続けていた時期、光一郎が「学校へは無理をしてでも行け」などと言った事はただの一度もなかった。休みたいなら休めばいい、別に構わない、と。光一郎はただそう言ってくれたのだ。 だからこそ、先刻の光一郎の怒ったような態度が友之には悲しかった。 学校が嫌だったわけではない。ただ光一郎の傍にいたかっただけだ。それが許されなかった。家にいるからには色々と取り組みたい事もあったのだろう。自分がいてはきっと邪魔だと思ったに違いない。…そんな様々な考えが友之の頭の中を巡っては消えた。 「 友之」 だから学校まで、校門まであとほんの数十メートルでたどり着くという時も、友之はもうそれ以上足を進める事ができなくなってしまった。光一郎の言いつけを守って学校へは行かなければならない。分かっているのに、何故だか足が前へ進まなかった。 「 友之って!」 「 え…?」 「 さっきから声かけているのに。どうした、ボーっとして」 沢海だった。 「 拡……」 「 うん」 名前を呼ばれてにこりと笑った沢海は、今日はきちんと制服を着ていた。部活の朝練がなかったのだろう、それでも学校鞄以外にも大きなボストンバッグを肩にさげて、沢海は立ち尽くしたままの友之を不思議そうに見やった。 「 友之の姿が見えたからさ。同じ電車だったのかな?」 「 ………」 「 ………何かあった?」 こうやって何か察してくれるところは、沢海は本当に光一郎に似ていた。友之は泣きそうになる気持ちを抑えてただ首を横に振った。 当然の事ながら沢海は納得してはくれなかったのだけれど。 「 別にさ、たまにはいいだろ?」 「 ………」 そう言って沢海が友之を連れてきたのは、学校から数分程の距離にある小さな児童公園だった。バス停の裏側にある小さな空き地とも隣接しており、そこは小さな子供たちの絶好の遊び場だろうと思えた。時間が早いせいか、この時は人の姿は全く見受けられなかったのだが。 沢海はすいすいと慣れた足取りで、その公園の一番奥にそびえ立つ木の傍のベンチにまで来ると、なかなか自分の後について来ない友之に手招きしてみせた。 「 来いよ、友之」 「 でも……」 「 一時間目、杉田の古典だろ? あんなの後で俺が教えてやるからさ」 珍しく人を小バカにするような態度で沢海は言った。名前の挙がった教師は他の生徒にも評判の良くない厳しいだけの中年男性教諭だったが、友之にしてみればだからこそ不安だった。 サボっているなどという事が光一郎にバレたらどうなるのか。 「 ………」 それでも沢海についてきてしまったのは。 「 ……よく来るの、ここ」 友之は言いながら沢海が腰掛けたベンチに自分もすとんと座った。 「 うん、まあ。部活の帰りに友達とかと」 「 そうなんだ…」 ここに来たのは、沢海に誘われたからではない。自分で選んで来たのだ。 あのままあの気持ちで学校へ行くのが嫌だったから。 「 友之」 沢海が言った。 「 何かさ、冬休みも全然会ってなかったから、こうやって友之と話すの久しぶりだな」 「 うん」 沢海の明るい声に呼応して友之も頷いた。 「 友之は休みの間何してた? 俺は部活と予備校ばっかり。全然正月って感じがしなかったなあ」 「 あ……」 「 ん?」 沢海の言葉で友之ははっとして改めて隣の友人を見やった。 「 ………拡、留学するの?」 「 え? ……あ、もしかしてあのバカ、喋った?」 数馬の事を言っているのだろうという事は分かったから友之はすぐに頷いた。それで沢海は「仕方ないな、あいつ」と一瞬むっとしたような顔をしたものの、少しだけ決まり悪そうに下を向いた。だからだろうか、逆に友之は沢海のことをじっと見やる事ができた。 「 あいつさ、ホントむかつく奴だよな。あんなちゃらんぽらんのくせにすごく出来てさ。俺なんか部活の合間に予備校通いしてんのに、あいつは気が向いた時しか来ないんだぜ。なのに、いつも模試ではあいつがトップ。ホント腹立つ」 「 ふうん……」 「 でも、この間の正月模試では初めて勝ったんだよ。やった!と思ってたら、あいつ、数学の最後の大問丸々やってなかったんだ。『眠かったから寝ちゃった』とか言いやがってさ。こっちは真面目に勝負してんのに、あいつは全然……」 けれど沢海はそこまで言いかけてぴたりと止めると、はっとしたようになってから苦笑した。 「 まあ、俺の話なんかどうだっていいよな…っ。本当さ、友之どうかした? 何か今日はいつもと違う感じがしたから」 「 別に……」 また別にかい、という数馬の声が聞こえたような気がしたけれど、友之はどうともする事ができなかった。 「 ごまかしたって駄目だよ。俺は友之の事なら大抵分かるから」 「 え……?」 「 いつも見てるし」 ぽつりと言って、けれど沢海は慌てたようになってかぶりを振った。 「 あ、でも心配すんなよな。こんな所にお前連れてきたって、別に何しようなんて思ってないし。俺、結構吹っ切れているところあるし。だから留学だって……」 「 ………」 「 ……俺さ、てんでガキだから」 ふと一瞬黙りこんでから沢海は言った。自分のことをじっと見つめる友之に多少居心地の悪そうな顔をしながら。 それから沢海は不意に制服ズボンの尻ポケットから小さな携帯を取り出すと、それを友之に見せた。 「 ほら、携帯買ったんだ」 「 携帯?」 「 うん。でもな、これ、買え買えって親に無理やり言われて買ったんだ」 沢海は苦笑いしてから右手に持った携帯をかちゃりと開けて、またぱたりと閉じた。 「 うちの両親って放任主義っていうのかな、割と夫婦が仲良くって俺なんか眼中ないって感じだったから、今まで俺が何してもあんまりうるさく言ったりってなかったんだよな。なのに俺が高校卒業したら留学したいって言ったら、急に母親がさ、携帯持てって。予備校帰りで遅くなる度、掛かってくるよ」 「 ………」 「 あ、ホントごめんな、俺ばっかこんなつまんない話して」 気を遣ったようにそう言う沢海に友之は慌ててかぶりを振った。うまい言葉は出そうになかったけれど、変わろうとしている沢海や、沢海の家族の事はとても良いものに見えた。そしてとても感じ入るものがあった。 羨ましい。 「 俺さ、正直自分の親のことってよく分からないんだよな」 沢海は続けた。 「 家族って言ったって、別に普段から何を意識しているってわけでもないし。まあ、自分が帰る所にあの人たちもいて、仕事が終わればあの人たちもあの家に帰ってくる。それだけなんだよ。……こう言うと何だか随分冷めた風に聞こえるかもしれないけど、俺にとって家族ってそういうもの」 沢海が何を思ってそんな話を友之にしだしているのか、友之には分かるようで分からなかった。ただじっと、何かを掴み取ろうと隣に座る優しい同級生の顔を見つめ続けた。 沢海は沢海でそんな友之を見つめ返しながら先の言葉を継いだ。 「 でも母親は母親で俺って存在がよく分かってなかったのかも。でも、今知ろうとしているのかも」 「 だから携帯…?」 「 案外バカなんだよな、あの人」 嘲笑する風でもなくそんな台詞で言ってから、沢海は再び携帯をしまった。それから思い出したように「そういえば昨日電話しちゃってごめんな」と付け加えのように言った。 「 特に用はなかったんだ…ホント。友之もう寝ちゃったって聞いて、悪かったなあ。でも、久しぶりに光一郎さんと話せて楽しかったよ」 光一郎の名前が出た事で友之は急にどきんとして、肩先をぴくりと動かした。そうなるともう訊かずにはおれなかった。 「 コウ…何か言っていた?」 「 特には何も。ただ進路の話をしてたんだけど…。相変わらずだなあって」 「 え?」 友之が怪訝な顔で聞き返すと、沢海は可笑しそうに目を細めた。 「 だから、光一郎さんって相変わらず友之の事本当に大事なんだなって」 「 どうして……」 「 どうしてって。そんなの分かるよ。すごく分かる」 「 ………」 「 友之だって分かるだろ?」 「 ………」 分かる。 ワカル? ワカル。ワカル…ワカラナイ。 「 俺、高校出てあっちへ行ったらさ。いつかあの人みたいになれたらいいな。…友之が頼ってくれるくらいの奴になりたい」 「 拡…」 「 わーるい! ホント、しつこい男でさ」 沢海の冗談めかした声に、けれど友之は反応を返す事ができなかった。沢海の言葉を嬉しいとも思ったが、途惑いもした。そして同時に、自分に「学校へ行け」と言った光一郎の冷たい目を思い出し、悲しくなった。 それでも友之は光一郎の元へ早く帰りたかった。 裕子は来ているだろうかと思った。 |
To be continued… |
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